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ブルーリ潰瘍Q&A ハンセン病研究センター

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 (2015年2月12日 改訂)
 

1. ブルーリ潰瘍とはどんな病気ですか?
 ブルーリ潰瘍(Buruli ulcer)とは細菌の一種である抗酸菌のMycobacterium(M.) ulcerans、またはその近縁のM.ulcerans subsp.shinshuenseが原因で発症する、潰瘍などの皮膚病変を主症状とする感染症です。

2. どうして「ブルーリ潰瘍」という名前がついたのですか?
 アフリカのウガンダのブルーリ地方で「大きな皮膚潰瘍」の患者が多くいたことから「ブルーリ潰瘍」といわれてきました。その後西アフリカ地域をはじめオーストラリア、メキシコなどでも報告されてきました。日本では1980年にブルーリ潰瘍に類似した症例が報告され、その後患者さんが増えてきました。

3. WHO (世界保健機関)の対応は?
 WHOでは、ブルーリ潰瘍を「顧みられない熱帯病(neglected tropical diseases: NTD)」のひとつとして、診断・治療・予防・研究に精力的な活動を行っています(URL: http://www.who.int/buruli/en/)。

  注) NTD: 熱帯地域を中心に蔓延している寄生虫や細菌による感染症(現在ブルーリ潰瘍やハンセン病など17の病気)で、貧困層を中心に世界の約10億人が感染し、年間50万人が死亡していると言われています。これらの熱帯病は先進国でほとんど患者さんがないために、これまで世界の関心を集めることがありませんでした。

4. 原因菌のM. ulceransおよびM. ulcerans subsp. shinshuenseの性質は?
 両菌の主な性状を表1に示しました。通常は環境中(土中や水中などと考えられる)にいる菌で、至適温度は30-33℃ですが、25℃程度の室温でも増殖可能です。日本の患者さんから検出された原因菌はすべてM. ulcerans subsp.shinshuenseです。

 
表1. M. ulcerans 及びM. ulcerans subsp. shinshuense の性状
培養 :28−34℃(30−33℃が至適温度)
:約4週間(slow grower)(小川培地)
光発色 :非光発色菌(non-photochromogenic) (M. u 2)
:暗発色菌(scotochromogenic)(M.u subsp. s 3)
培養コロニー :黄色(rough, ラフ)
ウレアーゼ活性 :陰性(M. u)、陽性(M.u subsp. s
ナイアシン産生 :陰性(一部の菌では陽性あり)
毒素 :mycolactone産生
DDH 1) M. marinumにスポット(交叉反応あり)
1)DDHマイコバクテリア‘極東’(極東製薬工業)
2)M. ulcerans
3)M. ulcerans subsp. shinshuense

 

5. 感染経路は?
 ブルーリ潰瘍の感染経路は、未だ不明です。これまでの疫学調査では、川辺や池、湿地などの周辺の住民に患者が多いことが知られています。菌を持っている動物(保菌動物)や媒介生物などに関しては諸説あり、今後のさらなる調査が必要です。ヒトからヒトへの感染は報告されていません。

6. 毒素マイコラクトンとは?
 菌が産生する毒素がマイコラクトン(mycolactone)で、細胞傷害性に働き、免疫抑制作用があります。そして細胞を壊死させるために皮膚潰瘍を形成します。また末梢神経のシュワン細胞を障害するために潰瘍になっても痛みが殆どありません。

7. どんな症状があらわれますか?
 一般的な好発部位は、裸露部である上肢や下肢、時に顔面です(表2)。初期には、虫刺され様の紅斑から紅色丘疹です(図1)。徐々に直径数cm大の無痛性の皮下の結節に進行します(図2)。その後、数日から数週間でその中心部が自壊し、潰瘍になっていきます(図3,4)。痛みは無いか軽度ですが、二次感染を伴う場合は疼痛を認めます。発熱はまれで、全身状態は良好なことが多く、ブルーリ潰瘍が死因となることは稀です。しかし、診断・治療が遅れると、関節の屈曲や皮膚に巨大瘢痕などの後遺症が残ります。

 注) 写真(図)はWHOの許可を得て掲載(外国の患者)

 
表2. 日本のブルーリ潰瘍の皮疹の好発部位(53例)

部 位 患者数

上 肢 26
下 肢 24
顔 面 8

   ●重複例あり
   ●耳は顔面に含めた
   ●1人の患者で「左・右上肢」などの場合は「上肢」で「2」とした

 

Fig1 

 Fig2

図1 びらんを有する丘疹

図2 腕の皮下結節(ブルーリ潰瘍、WHO)

 Fig3

 Fig4

図3 潰瘍(ブルーリ潰瘍、WHO)

図4 広範囲にわたる潰瘍(ブルーリ潰瘍、WHO)

 

8. 病原体検出の検査は?
 潰瘍底や潰瘍側面などを綿棒で擦過するスメア検査で菌を検出します。皮膚組織や膿などを培養する検査もあります。病変部から菌のDNAを検出するPCR検査もあります。

9. ブルーリ潰瘍の診断は?
 感染症なので原因菌のM.ulceransまたはM. ulcerans subsp. shinshuenseを検出できれば確定診断になります。しかし、菌の同定の検査には数ヶ月を要します。従って日本においては、①潰瘍を伴う皮疹(疼痛は不定)、②皮膚の病理組織検査で壊死を認める、③PCR検査(ブルーリ潰瘍特異的なIS2404を用いる)で陽性であれば「ブルーリ潰瘍」と診断します。ブルーリ潰瘍の検査については国立感染症研究所ハンセン病研究センターに問い合わせ下さい。

 類似した病気(鑑別診断)には皮膚結核、ハンセン病、リーシュマニア症、ハエ幼虫症、炭疽などの熱帯皮膚感染症、糖尿病性潰瘍、褥瘡、壊疽性膿皮症、壊死性筋膜炎、リポイド類壊死、悪性腫瘍、虚血性疾患、外傷などがあるので、皮膚科医による診療が必要です。

10. ブルーリ潰瘍の治療は?
 抗酸菌感染症であるので、抗菌薬(抗生物質)内服治療(リファンピシンやクラリスロマイシン、キノロンなどを数種類内服)が主になります。潰瘍が大きい場合には外科治療も必要で、植皮を考慮する場合もあります。

11. 感染予防対策は?
 感染源などが特定されていないので確実な予防対策はありません。特に日本においては患者数が少なく、病気の全体像が不明なため予防対策より早期診断が重要です。

12. 日本のブルーリ潰瘍の現状は?
 日本におけるブルーリ潰瘍は、1980年、19歳女性の左肘関節伸側に発生した報告が初めてです。その後2014年末までに53名の患者さんが確認されています(表3 、表4)

 
表3. 日本の患者数
地方 都府県名 件数 地方 都府県名 件数
北海道 北海道 0 近畿 三重  3
東北 青森 0 滋賀 5
岩手 0 京都 1
宮城 0 大阪 1
秋田 3 兵庫 0
山形 1 奈良 0
福島 4 和歌山 0
関東 茨城 0 中国 鳥取 5
栃木 4 島根 0
群馬 0 岡山 10
埼玉 0 広島 1
千葉 2 山口 0
東京 0 四国 徳島 0
神奈川 0 香川 0
中部 新潟 4 愛媛 0
富山 0 高知 0
石川 0 九州 福岡 0
福井 0 佐賀 0
山梨 0 長崎 0
長野 2 熊本 0
岐阜 4 大分 0
静岡 0 宮崎 0
愛知 2 鹿児島 1
      沖縄 沖縄 0

表4. 日本のブルーリ潰瘍の診断年・年齢・性別分布
新患数 性別 年齢
0-9 10-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70-79 80-
1980 1 1 1
2004 1 1 1
2005 1 1 1
2006 1 1 1
2007 3 2 1 1 1 1
2008 2 2 1 1
2009 5 2 3 1 1 1 1 1
2010 9 3 6 2 1 1 3 1 1
2011 10 5 5 1 2 1 1 1 2 1 1
2012 4 1 3 1 1 1 1
2013 10 4 6 2 1 1 1 1 1 1 1 1
2014 6 1 5 1 1 1 1 2
Total 53 18 35 4 4 3 2 1 5 1 3 1 3 3 6 1 5 3 4 1 3
 

13. 世界のブルーリ潰瘍の現状は?
 30ヵ国以上からの報告があり、年間約5,000人の新患が報告されていますが、実数はさらに上回ると考えられています。

 WHOは1998年にBuruli Ulcer Global Initiativeを発足させ、日本でも国立感染症研究所ハンセン病研究センターを中核的センターとし、症例の集積や検査、疫学的検討、治療法、潰瘍の治療法などの検討を行っています。

14. これからの課題は?
 ブルーリ潰瘍は熱帯皮膚病と考えられていましたが、日本にも存在する感染症です。患者数は近年増加していますが、早期診断・治療することで後遺症を残さず治癒に導くことが可能です。

 今後ブルーリ潰瘍の感染様式、特に感染源やベクターの解明を行い、感染ルートを明らかにして予防につなげる必要があります。また早期発見のために皮膚科医を中心に啓発に努め、さらにアジア諸国と連携をもって、各国でのブルーリ潰瘍の発見をサポートすべきです。

15. ブルーリ潰瘍に関する問合せ先:

石井則久 Norihisa ISHII norishii@nih.go.jp
中永和枝 Kazue NAKANAGA nakanaga@nih.go.jp

国立感染症研究所ハンセン病研究センター 

〒189-0002 東村山市青葉町4-2-1
Tel:042-391-8211 FAX: 042-391-8210

http://www0.nih.go.jp/niid/lrc/


16. 主な文献:

教科書
 

  1. 石井則久:皮膚抗酸菌症テキスト. 金原出版, 東京, 2008.

総説
  1. 石井則久、他:深い潰瘍を形成する新たな非結核性抗酸菌感染症 Mycobacterium shinshuense感染症. 臨床皮膚科 64(増刊): 8-12, 2010.
  2. 四津里英、他:アフリカの抗酸菌症が日本にも-ブルーリ潰瘍-. MBデルマ183: 41-49, 2011.
  3. Nakanaga K, et al.: Nineteen cases of buruli ulcer diagnosed in Japan from 1980 to 2010. J Clin Microbiol 49: 3829-3836, 2011.
  4. 石井則久、他:ブルーリ潰瘍. 日本臨床皮膚科医会雑誌 29: 376-383, 2012.
  5. Yotsu RR, et al.: Buruli ulcer and current situation in Japan: a new emerging cutaneous Mycobacterium infection. J Dermatol 39: 587-593, 2012.
  6. Nakanaga K, et al.: Laboratory procedures for the detection and identification of cutaneous non-tuberculous mycobacterial infections. J Dermatol 40: 151-159, 2013.
  7. Nakanaga K, et al.: Buruli ulcer and mycolactone-producing mycobacteria. Jpn J Infect Dis 66: 83-88, 2013.

日本の症例
  1. Tukamura M, Mikoshiba H: A new mycobacterium which caused skin infection. Microbiol Immunol 26: 951-955, 1982.
  2. 御子柴 甫、他:Mycosbacterium ulcerans類似菌による非定型抗酸菌症の1例. 日本皮膚科学会雑誌92: 557-565, 1982.
  3. 今田英明、他:Mycobacterium shinshuense により生じたBuruli潰瘍に類似した難治性肘頭部潰瘍の 1 例. 整形外科 59: 1440-1445, 2008.
  4. 鈴木智子、他:“M. ulcerans subsp. shinshuense”による皮膚潰瘍. 皮膚病診療30: 145-148, 2008.
  5. Funakoshi T, et al.: Intractable ulcer caused by Mycobacteriumshinshuense: successful identification of mycobacterium strain by 16S ribosomal RNA 3'-end sequencing. Clin Exp Dermatol 34: e712-e715, 2009.
  6. Kondo M, et al.: Leg ulcer caused by Mycobacterium ulcerans ssp.shinshuense infection. Int J Dermatol 48: 1330-1333, 2009.
  7. Watanabe T, et al.: Buruli ulcer caused"Mycobacterium ulcerans subsp.shinshuense". Eur J Dermatol 20: 809-810, 2010.
  8. 湊 はる香、他: 多剤併用療法が奏効したブルーリ潰瘍 (Mycobacterium ulcerans subsp. shinshuense 感染症)の1例. 皮膚臨床53, 1219-1220, 1301-1304, 2011.
  9. 加畑大輔、他:Mycobacterium ulcerans subsp. shinshuenseによるBuruli潰瘍の1例. 日皮会誌121: 3337-3342, 2011.
  10. Matsumura Y, et al.: A case of buruli ulcer due to Mycobacterium ulcerans ssp. shinshuense with distal cutaneous involvement and synovitis. J Dermatol 39: 80-83, 2012.
  11. Onoe H, et al.: Buruli ulcer accompanied by pain in a Japanese patient. J Dermatol 39: 869-870, 2012.
  12. 濱田利久:Buruli潰瘍. 皮膚病診療 35: 665-668, 2013.
  13. 梅林芳弘、他:秋田県で発生したBuruli潰瘍. 皮膚病診療35: 669-672, 2013.
  14. Ohtsuka M, et al.: Buruli ulcer caused by mycobacterium ulcerans subspshinshuense: A rare case of familial concurrent occurrence and detection of insertion sequence 2404 in Japan. JAMA Dermtol 150: 64-67, 2013.

日本人による主な研究論文など
  1. Mwanatambwe M, et al.: Clinico- histopathological findings of Buruli ulcer. Jap J Lepr 69: 93-100, 2000.
  2. 中永和枝、他:Mycobacterium ulcerans感染マウスに対するrifalazilおよびrifampicinの発症阻止効果の比較. 結核 79: 333-339, 2004.
  3. Goto M, et al.: Nerve damage in Mycobacterium ulcerans- infected mice: probable cause of painlessness in buruli ulcer. Am J Pathol 168: 805-811, 2006.
  4. 中永和枝、他: Mycobacterium shinshuense と Mycobacterium leprae の分子生物学的診断法の有用性. 日本ハンセン病学会雑誌76: 245-250, 2007.
  5. Nakanaga K, et al.: "Mycobacterium ulcerans subsp. shinshuense" isolated from a skin ulcer lesion: identification based on 16S rRNA gene sequencing. J Clin Microbiol: 45:3840-3843, 2007.
  6. En J, et al.: Mycolactone is responsible for the painlessness ofMycobacterium ulcerans infection (Buruli Ulcer) in a murine study. Infect Immun 76: 2002-2007, 2008.
  7. 圓純一郎、他:ブルーリ潰瘍(Mycobacterium ulcerans感染症)の神経傷害におけるmycoloctoneの役割. 日本ハンセン病学会雑誌 80: 5-10 , 2011.
  8. Nakanaga K, et al.: Laboratory procedures for detection and identification of cutaneous non-tuberculous mycobacterial infections. J Dermatol 40: 151-159, 2013.
  9. Nakanaga K, et al.: Buruli ulcer and mycolactone-producing mycobacteria. Jpn J Infect Dis 66: 83-88, 2013.

WHOの本・資料
  1. Kingsley A, et al.: Buruli ulcer: Mycobacterium ulcerans infection. World Health Organization, Global Buruli Ulcer Initiative, 2000.
  2. World Health Organization: Provisional guidance on the role of specific antibiotics in the management of Mycobacterium ulcerans disease (Buruli ulcer). World Health Organization, Geneva, 2004.
  3. World Health Organization: Buruli ulcer: progress report, 2004-2008. Weekly Epideniological Record 83( No. 17): 145-156, 2008.
  4. World Health Organization: Treatment of Mycobacterium ulceransdisease (Buruli ulcer). World Health Organization, Geneva, 2010.

感染源・ベクターの研究
  1. Johnson PDR, et al.: Mycobacterium ulcerans in mosquitoes captured during outbreak of Buruli ulcer , southeastern Australia. Emerg Infect Dis 13: 1653-1660, 2007.
  2. Portaels F, et al.: First cultivation and characterization of Mycobacterium ulcerans from the environment. PLoS Negl Trop Dis 2: e178, 2008.
  3. Williamson HR, et al.: Distribution of Mycobacterium ulcerans in Buruli ulcer endemic and non-endemic aquatic sites in Ghana. PLoS Negl Trop Dis 2: e205, 2008.
  4. Stinear T, Johnson PDR: First isolation of Mycobacterium ulcerans from an aquatic environment: the end of a 60-year search?. PLoS Negl Trop Dis 2: e216, 2008.
  5. Merritt RW, et al.: Ecology and transmission of Buruli ulcer disease: a systematic review. PLoS Negl Trop Dis 4: e911, 2010.

毒素(マイコラクトン)の研究
  1. Pimsler M, et al.: Immunosuppressive properties of the soluble toxin fromMycobacterium ulcerans. J Infect Dis 157: 577-580, 1988.
  2. George KM, et al.: Partial purification and characterization of biological effects of a lipid toxin produced by Mycobacterium ulcerans. Infect Immun 66: 587-593, 1988.
  3. George KM, et al.: Mycolactone: a polyketide toxin from Mycobacterium ulcerans required for virulence. Science 283: 854-857, 1999.
  4. Sarfo FS, et al.: Detection of mycolactone A/B in Mycobacterium ulcerans-infected human tissue. PLoS Negl Trop Dis 4: e577, 2010.
  5. Pidot SJ, et al.: Mycobacterium ulcerans and other mycolactone- Producing mycobacteria should be considered a single species. PLoS 4: e663, 2010.
  6. Spangenberg T, Kishi Y: Highly sensitive, operationally simple, cost/time effective detection of the mycolactones from the human pathogenMycobacterium ulcerans. Chem Commun (Camb) 46: 1410-1412 , 2010.
  7. Jackson KL, et al.: Scalable and efficient synthesis of the mycolactone core. Tetrahedron 66: 2263-2272, 2010 .

ハンセン病 さらに知識を得たい方へ

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ハンセン病さらに知識を得たい方へ


ハンセン病研究センターへ問い合わせてください。また以下の書籍、文献を参考にして下さい。

教科書として:
○ハンセン病医学夏期大学講座教本 (前年の教本、ハンセン病研究センターに請求、残少ない)
○Hastings RC ed: Leprosy, Churchill Livingstone, Edinburgh, 1994.
○石井則久、中嶋 弘、長尾榮治、尾崎元昭:ハンセン病診断・治療指針. (厚生省監修), 藤楓協会, 東京, 1997.
○石橋康正、昆 宰市、中嶋 弘監修、石井則久、尾崎元昭編集:ハンセン病の外来診療, メジカルセンス, 東京, 1997.
○石井則久、遠藤真澄、杉田泰之:ハンセン病. 看護のための最新医学講座 第19巻皮膚科疾患(中川秀己編集), pp326-328, 中山書店, 東京, 2001.
○小野友道、尾崎元昭、石井則久責任編集:ハンセン病アトラス, 金原出版, 東京, 2006.
○牧野正直、長尾榮治、尾崎元昭、畑野研太郎編集:総説現代ハンセン病医学, 東海大学出版会, 神奈川, 2007.
○石井則久:皮膚抗酸菌症テキスト, 金原出版, 東京, 2008.

他の抗酸菌と比較する:
○中嶋 弘監修、石井則久、新井裕子、山田利恵、杉田泰之、長谷哲男編集:皮膚抗酸菌症-その臨床と本邦報告例, メジカルセンス, 東京,1998.

ハンセン病の医学用語:
○斎藤 肇、伊崎誠一、石井則久、石橋康正、高屋豪瑩、小関正倫、牧野正直:ハンセン病用語集. 日本ハンセン病学会雑誌 66: 249-252, 1997.

今後のハンセン病医療:
○石井則久、中永和枝、杉田泰之:ハンセン病-最近のトピックス. 臨床皮膚科 55(sup 5): 166-168, 2001.
○石井則久:ハンセン病の現状. MB Derma 114: 39-45, 2006.

治療について:
○後藤正道、野上玲子、畑野研太郎、岡野美子、石井則久、儀同政一、石田 裕、尾崎元昭:ハンセン病治療指針(第3版). 日本ハンセン病学会雑誌 82: 143-184, 2013.
検査について:
○石井則久、杉田泰之:抗酸菌症に関する検査. Monthly Book Derma 41: 140-146, 2000.
○杉田泰之:ハンセン病とPCR. 日本ハンセン病学会雑誌, 70: 3-13, 2001.
○石井則久、中永和枝、松岡正典、鈴木幸一:らい菌の遺伝子診断の現状. 日本ハンセン病学会雑誌 75: 261-264, 2006.

国際協力:
○石井則久:在日外国人のハンセン病. 診断と治療(増刊号) 87: s167-s171, 1999.
○石井則久:国際交流と感染症. 皮膚科の臨床 41: 870-880, 1999.
○鈴木幸一、森 修一、石井則久:世界のハンセン病の将来戦略. 日本ハンセン病学会雑誌 75: 23-39, 2006.
○石井則久、永岡 譲、森 修一、鈴木幸一:ハンセン病制圧後のハンセン病対策戦略. 日本ハンセン病学会雑誌 75: 239-248, 2006.

統 計:
○WHO: Weekly epidemiological record 84(No.33), 333-340, 2009. (日本語訳:日本ハンセン病学会雑誌 79:43-51, 2010.)

学会及び学会誌:
日本ハンセン病学会
  189-0002  東京都東村山市青葉町4-1-13
  電話:090-8747-1851  FAX:042-396-2981

インターネット検索:
http://www0.nih.go.jp/niid/lrc/
 国立感染症研究所ハンセン病研究センター
http://www.who.int/wer 
 WHO発行の週報(時々ハンセン病の特集が掲載される)
http://www.who.int/lep
 WHO(ハンセン病ページ)
http://idsc.nih.go.jp/disease.html
 国立感染症研究所感染症情報センター(疾患別情報 > 索引 > ハンセン病へ)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/hansen/
 厚生労働省(ハンセン病に関する情報ページ)
http://www.hansen-dis.jp/
 国立ハンセン病資料館
http://www.hansen-gakkai.jp/
 日本ハンセン病学会

ハンセン病 一般の方向け

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(2015年2月12日 改訂)

ハンセン病 医療関係者向け

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(2015年2月12日 改訂)
概念
 ハンセン病は抗酸菌の一種であるらい菌による慢性細菌感染症で、主な病変は皮膚と末梢神経で、内臓が侵されることはまれです。各人のらい菌に対する免疫能の差から病型が分類されるので、免疫病とも言われています。「ハンセン病」が正式病名で、「らい」、「癩」などを用いません。診断・治療は一般の医療機関(保険診療)で行われています。感染し発病することは稀です。感染源は、らい菌が多く証明される未治療患者で、飛沫感染といわれています。感染時期は免疫系が十分に機能していない乳幼児期で、その期間の濃厚で頻回の感染以外ほとんど発病につながりません。また感染から発病までには生体の免疫能、菌量、環境要因など種々の要因が関与するため長期間(数年〜10数年〜数10年)を要します。遺伝病ではありません。日本での新患数は、日本人は毎年数名、在日外国人は約5名です。

 では、項目を分けて、説明します。略語は最後にまとめたので、参照してください。

感染と発病 
 人への感染は乳幼児期に、らい菌を多数排菌している患者との濃厚で頻回の接触によって、多数のらい菌が経気道的に入ることが重要です。そして数年から10数年、最近の日本では数十年の潜伏期を経て発症することがあります。発症にはその他、その人の免疫能、栄養状態、衛生状態、経済状態など様々な要因も関与します。なお、小児期以後の人が感染しても現在の日本では発症することはまずありません。すなわち、らい菌は感染・発病を同一線上には議論できません。

外来診療の現況
 
「らい予防法」廃止によってハンセン病は保険診療できるようになり、最近の新規患者の殆どは大学病院ないし一般医療機関の皮膚科で診療されています。


診察内容

 問診では出生地(国)、小児期生活歴、家族歴などを聞きます。皮膚症状、神経症状などの所見をとり、ハンセン病を鑑別にいれます。次に、らい菌の検出、皮膚病理検査などを行います(図1)。診療や検査、入院などでは通常の感染予防の対応で十分です。
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図1. ハンセン病診断への手順

臨床症状 
 皮疹は紅斑、白斑、丘疹、結節、環状の紅斑など多彩で、特異疹はありません。しかし、病型(後述)によってある程度特徴あるので、写真を参考にしてください(図2〜8)。皮疹に痒み無く、知覚(触覚、痛覚、温冷覚等)の低下、末梢神経の肥厚、神経運動麻痺などを認め、気づかずの外傷や火傷、などもおこります。

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図2. ハンセン病の皮膚症状(PB, I群)左上臀部に知覚低下を認める白斑局面がある。 図3. ハンセン病の皮膚症状(PB, TT型)左臀部から一部右臀部にわたる中心治癒性の環状紅斑局面、表面は乾燥傾向を示す。 図4. ハンセン病の皮膚症状(PB, BT型)扁平隆起した紅斑局面で、衛星皮疹も認める。
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図5. ハンセン病の皮膚症状(MB, BB型)紅斑〜環状紅斑が散在している。 図6. ハンセン病の皮膚症状(MB, BL型)左右対称性の紅斑〜環状紅斑局面 図7. ハンセン病の皮膚症状(MB, LL型)光沢を帯びた結節や浮腫性紅斑
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図8. ハンセン病患者に見られた火傷(知覚脱出部にみられている)


神経学的検査

 痒みのない皮疹部とその周辺の神経学的検査(触覚、痛覚、温度覚)を行います。神経の肥厚、運動障害、等も検査します(図9〜12)

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図9. 触覚検査(乾燥した綿球または脱脂綿をちぎってばらして数本の綿にしたもので軽く触れる) 図10. 痛覚検査(虫ピンまたは注射針で軽くはねるか突く) 図11. 温度覚検査(40 ℃前後と5℃前後の温冷二つの試験管で検査する) 図12. 神経肥厚(大耳神経)


らい菌検出の検査 
 らい菌は現在まで培養に成功していません。以下の検出法があります。複数の方法で菌の検出に努めます。

a)皮膚スメア検査:らい菌は皮膚(真皮)に多く存在するので、皮疹部などからメスで組織液を採取します。組織液をスライドグラスに擦り付け、抗酸菌染色* し、検鏡(1,000倍、油浸)します。手技により検出率にばらつきがでます。(図13, 14)

* 抗酸菌染色らい菌は抗酸性弱いため、通常の抗酸菌染色では染色されないことがありますので脂肪を取り過ぎないようにします。また染色過程で他の抗酸菌の汚染に注意します。

b)病理組織特殊染色:病理組織を抗酸菌染色* し、400倍で検鏡します。(図15)

c) PCR検査 :皮膚組織や組織液などかららい菌特異的なDNAを証明する検査です。ハンセン病研究センターで検査可能です。(図16) 

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図13.(左)皮膚スメア検査(円刃刀で皮疹部を刺し、90度回転させ、跳ね上げる。メスに組織液が付着しているので、スライドグラスに塗りつける) 

図14.(右)らい菌(皮膚スメア検査のもの。1,000倍、油浸)

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図15.(左)らい菌(皮膚の病理組織を抗酸菌染色、Fite染色したもの、400倍)赤染しているのがらい菌

図16.(右)PCRの結果 {プライマーとして70kDa (157 bp)の熱ショック蛋白(HSP 70)を用いた}


病理検査

 皮膚の生検では、肉芽腫やレプローマ、浸潤細胞などを観察します。少菌型では類上皮細胞性肉芽腫がみられ、巨細胞も認めます(図17)。神経への細胞浸潤も認めます。一方多菌型では組織球性肉芽腫で、組織球の泡沫状変化(レプローマ)や空胞化が認められます(図18)。特殊染色では抗酸菌染色(上述)、S100染色(神経を観察)などを行います。可能ならば神経の生検も行います。

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図17. 病理所見(PB、TT型、類上皮細胞や巨細胞などが見られる、400倍 HE染色) 図18. 病理所見(MB、LL型、泡沫細胞の集まった肉芽腫を形成している、400倍 HE染色)


検査機関

  ハンセン病の患者数が少ないので、特殊な検査は国立感染症研究所ハンセン病研究センター(病理検査、PCR検査、血清抗PGL-I抗体検査、薬剤耐性遺伝子変異検査)で実施しています(無料)。これらの検査依頼は各都道府県・指定都市の衛生主管部を通じ行う事になっていますが、詳細はハンセン病研究センターに問い合わせて下さい。

診断 
 日本とWHOとでは診断方法が異なります。日本では医師が時間をかけて患者を診察でき、検査も十分行えます(表1)。一方、途上国でハンセン病診療の第一線に立つのは医師よりも保健関係者が多いためです。日本の場合は、皮膚所見、神経学的所見、皮膚スメア所見、病理組織学的所見などを総合して診断しています。ハンセン病と診断した場合、少菌型(皮膚スメア陰性か、皮疹が1〜5個)か、多菌型(皮膚スメア陽性か、皮疹が6個以上)かを判断します(表2)。なおらい菌に対する患者の免疫応答能の差による病型分類 (Ridley-Jopling 分類)も用いられています。

 

表1. ハンセン病の診断(日本)
表2. ハンセン病の病型分類

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(以下の4項目を総合して診断する)
 (1) 知覚低下を伴う皮疹
 (2) 神経麻痺・肥厚・運動障害
 (3) らい菌検出
 (4) 病理組織所見


ハンセン病の病型(詳細)

  らい菌の数、皮疹の性状や数、知覚障害、神経肥厚、運動障害、病理組織所見などで患者間に多様性がみられますが、これはらい菌に対する生体の免疫能の差で、病型として分類されています。発症初期のI群、その後治癒するか、または進展してらい菌に対し免疫能が高いTT型、全く反応しないLL型、それらの中間のB群(BT型、BB型、BL型に細分する)に進展していきます(Ridley‐Jopling 分類)(図19)

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 またTT型などは検査でらい菌を検出しにくいので少菌型(paucibacillary:PB)、LL型などはらい菌を検出できるので多菌型(multibacillary:MB)とも分類されます。最近、皮疹が一つのみの場合にはPBの中から独立してSLPB (single lesion of PB)となっています。このPBとMBの分類は治療法の選択にも応用されています。
図19. ハンセン病の推移


治療

 外来で、WHOの推奨する抗ハンセン病薬{リファンピシン(RFP)、ジアフェニルスルホン(DDS)、クロファジミン(CLF、色素系抗菌薬)の3薬物}を用いた多剤併用療法(MDT)を原則にし、6ヶ月(少菌型)から1年間(多菌型)内服を行います(表3、図20)。なおSLPBは別の治療法を用いていますが、日本ではSLPBの症例が殆どなく、PBと同じ治療法を適用しています。日本ではMDTを一部修飾して内服薬を追加、治療期間を延長するなどしています*。内服終了すると治癒と判定します。治療の前・中・後に急性の反応が出現する場合があります(らい反応)(図21)。反応は皮疹の増悪とともに、神経の炎症が強度に出現し、ステロイド内服などが必要です。

* 日本で保険適応になっている抗ハンセン病剤はRFP、DDS、CLFの他オフロキサシン(OFLX)の4剤です。


表3. ハンセン病の治療 (WHO-MDTの原法とは異なり、日本の実状に合わせてある)

  PB(少菌型) MB(多菌型)

成 人
毎日
DDS 100mg(分2、食直後) DDS 100 mg(分2、食直後)
CLF 50 mg*(分1、食直後)

月1回
RFP 600mg (朝食前) RFP 600 mg (朝食前)
CLF 300 mg(分3、食直後)

小 児
(10~14歳)
毎日
DDS 50 mg(分1、食直後) DDS 50 mg(分1、食直後)
CLF 50 mg**(分1、食直後)

月1回
RFP 450mg (朝食前) RFP 450 mg (朝食前)
CLF 150 mg(分3、食直後)

治療期間   6ヶ月間
遅れても9ヶ月以内に
服用し終わる
12ヶ月間
遅れても18ヶ月以内に
服用し終わる

・皮疹が一個のみの患者(SLPB)には日本ではPBとして治療を行っている。
・MBにおいては12ヶ月では不十分との意見があり、内服終了時に継続するかを判断する。

* CLF 300mgを飲む日は飲まない。 
** CLF 150mgを飲む日は飲まない。

・CLF:クロファジミン、DDS:ジアフェニルスルホン、RFP:リファンピシン

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図20. WHOにもとづいたハンセン病の診断と病型分類(1997年) 図21. らい反応(らい性結節性紅斑、ENL)発熱、圧痛を伴う軽度隆起性の紅斑が出没する。


生活指導の要点 
  早期診断、早期治療を心がけ、後遺症を残さないようにすることが重要です。ハンセン病は治癒する病気ですが、治療終了後も皮疹の再燃、らい反応、神経障害などのフォローのため定期的に通院していただきます。外来の消毒は一般細菌と同様です。

後遺症 
  有効な抗ハンセン病薬で治療を行われていなかった時代には、四肢や顔面などに変形などがおこりました。現在では、早期発見、早期治療によって後遺症を残すことは稀になっています。(図22)
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図22. 後遺症(小指、早期に受診すると、後遺症起こさないか、この程度ですむ)


診療のアドバイス 
  検査・診断・治療のアドバイスをするネットワークが日本ハンセン病学会内にあります(ホームページ有り)。 ハンセン病研究センターでは石井(norishii@nih.go.jp)が対応しています。

日本の患者数は 
  最近の新規患者数は、毎年、日本人は数名、在日外国人は数名です。日本人新規患者の減少は著しく、年齢層は60歳以上がほとんどで、乳幼児期の感染によるものです。一方、在日外国人患者についてはブラジルやフィリピンなどからの労働者が目立ちます。なお、全国14のハンセン病療養所には約1,700名の入所者がいます(平均年齢:84歳)。ほとんどの入所者は治癒していますが、後遺症や高齢化などのため引き続き療養所に入所しています。(図23)

図23. ハンセン病新規患者数 1993〜2014年(2015年2月1日現在)
日本人   外国人
合計 女子 男子 男子 女子 合計
8 1 7 1993年 9 1 10
9 7 2 1994年 4 2 6
8 3 5 1995年 9 1 10
6 2 4 1996年 14 4 18
6 3 3 1997年 6 2 8
5 2 3 1998年 2 3 5
8 2 6 1999年 7 4 11
6 4 2 2000年 5 3 8
5 2 3 2001年 5 3 8
7 3 4 2002年 6 3 9
1 0 1 2003年 6 1 7
4 2 2 2004年 7 1 8
0 0 0 2005年 5 1 6
1 0 1 2006年 6 0 6
1 0 1 2007年 10 1 11
3 1 2 2008年 1 3 4
0 0 0 2009年 1 1 2
0 0 0 2010年 4 0 4
2 1 1 2011年 2 1 3
0 0 0 2012年 3 0 3
1 1 0 2013年 2 0 2
1 0 1 2014年 1 3 4


世界の状況  
 新規患者数は年間約22万人(2013年、WHO)です (表4)。主な国の年間の新規ハンセン病患者数は、インドで約12.7万人、ブラジルで約3.1万人、インドネシアで約1.6万人などです。

表4. 2013年の新規患者数が1,000人以上の14カ国(WHO) 
 国 名
新患数
 国 名
新患数
インド 126,913 バングラディシュ 3,141
ブラジル 31,044 ミャンマー 2,950
インドネシア 16,856 タンザニア 2,005
エチオピア 4,374 スリランカ 1,990
コンゴ民主共和国 3,744 フィリピン 1,729
ナイジェリア 3,385 マダガスカル 1,569
ネパール 3,225 コートジボワール 1,169
世界合計 215,656

らい菌とは 
  らい菌は抗酸菌の仲間で、1873年ハンセン(ノルウェー)によって発見されました。人工培地で培養できず、らい菌の供給はヌードマウスの足底で増殖させています。世代時間は約11日と増殖はかなりゆっくりしています。31℃前後が至適温度のため皮膚を好んで侵します。また末梢神経親和性を有しています。マクロファージ内で増殖するので、病理では肉芽腫やレプローマなどとして観察されます。ヒト以外にも動物(九帯アルマジロ、マンガベイザル等)にも感染しますが、ヒトへの感染はヒト対ヒトが重要です。

研究の進展 
  らい菌のゲノムDNAの全配列が決定されました。らい菌に対する免疫反応の解明が進んでいます。シュワン細胞とらい菌の接着にかかわる分子の同定も報告され、細胞特異性の解明が進んでいます。耐性菌の早期検出が可能になってきました。新たな治療薬の開発とともに、治療期間を短縮し、らい反応を防ぐ方法の開発が進展しています。世界にはアジアを中心に多数のハンセン病患者がいるので、国際協力の一層の強化が必要です。

ハンセン病研究センターでの仕事の紹介 
 研究の他、全国の医師からのハンセン病検査(行政検査、前述)、アジアのハンセン病研究者の研修、ハンセン病医学夏期大学講座の開催などです。

ハンセン病研究センターでの研究 
  らい菌と人間とのかかわりを免疫学や分子生物学など最新の技術を用いて解析しています。また、治療薬の開発、耐性らい菌や末梢神経後遺症の予防の研究など、ハンセン病全般に亘った研究をしています。

ハンセン病医学夏期大学講座 
 毎夏、医療関係の学生、医療関係者、さらに生物物理などの学生等、ハンセン病に関心の有る方々を対象に実習を取り入れた講座を開催しています。問合せはハンセン病研究センターまでお願いします。

さらに知識を得たい人へ こちらをクリックしてください。

ハンセン病関係略語 こちらをクリックしてください。

ノロウイルス等検出状況 2014/15シーズン(2015年2月9日現在報告数)

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 国立感染症研究所・感染症疫学センターには地方衛生研究所(地研)から「病原体個票」が報告されている。これには感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体(ノロウイルスをはじめ、サポウイルス、ロタウイルス、アストロウイルスなど)の情報が含まれる。

図1.週別ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルス検出報告数、2014/15シーズン
図2.都道府県別ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルス検出報告状況、2014/15シーズン
図3.週別都道府県別ノロウイルス検出報告状況、2014/15シーズン
図4.ノロウイルス感染集団発生の伝播経路別月別推移、2010/11〜2014/15シーズン CSV
図5.ノロウイルス感染集団発生の推定感染・摂取場所の割合、2012/13〜2014/15シーズン

*2014/15シーズンは2014年第36週/9月~2015年第35週/8月(検体採取週)。

図の元データは、以下の速報グラフ(病原体個票による報告)の(1)〜(4)。

データは、土日祝日を除く2日前に地研から報告された情報。過去の週に遡っての追加報告もある。現在報告数は、地研より報告された日を表す。

 

*参考:週別Astrovirus検出報告数2010/11-2014/15シーズン (2015年1月13日現在報告数)

 

 

 

 

 

(参考)ノロウイルス関連情報(国立医薬品食品衛生研究所)

 

 


 

 

 

ノロウイルス等検出状況 2013/14シーズン (2014年10月1日現在報告数)

 

ノロウイルス等検出状況 2012/13シーズン (2013年10月24日現在報告数)

 

ノロウイルス等検出状況 2011/12シーズン (2012年11月8日現在報告数)

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 病原微生物検出情報事務局

 

 

<速報>デング熱報告例に関する記述疫学(更新)(2014年1~12月)

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デング熱報告例に関する記述疫学(更新)(2014年1~12月)

(掲載日 2015/2/13)

感染症発生動向調査システム(NESID)に報告されたデング熱症例について、2014年1月~9月までの報告例に関しては、2014年11月号(IASR 35: 276-278, 2014)で報告したところである。今回は、2014年1月~12月(疫学週第1週~第52週)の1年分の報告例について、データの更新情報としてまとめた。

デング熱症例は計340例、うち国内感染例(以下、国内例)は162例(前回より+13例)、国外感染例(以下、国外例)は178例(同+35例)であった。

2014年第1~52週に診断され報告された340例のうち、発症日不明の14例を除いた326例の発症日は2014年1週~2014年52週であり、発症週別の流行曲線(図1)では、国内例で最も早い症例は第32週に発症しており、最も多い症例が発症した週は第35週(44例)、続いて第36週(41例)であった。最も遅い発症は第43週(10月下旬)であった。国外例は1年を通じて報告されているが、最も多い週は第37週(9例)、続いて第34週(8例)、第39週(8例)であった。

感染推定地域は、国内例162例中、東京都が159例(98%)で、千葉県1例、兵庫県1例、都道府県不明1例であった。報告自治体については、前回の報告から1つ増え19都道府県となったが、報告例の多い自治体に関しては、前回と同様であった。一方、国外例の推定感染国は、178例の92%にあたる164例においてアジアの国が報告されており、報告例の多い順にインドネシア53例(30%)、フィリピン32例(18%)、マレーシア28例(16%)、タイ22例(12%)であった。

年齢・性別は前回の報告と大きな変化はなく、国内例の年齢中央値は27歳〔四分位範囲(IQR)20-44.3〕、男性が95例(59%)。国外例では年齢中央値は32.5歳(IQR 22-44)、男性が111例(62%)で、10代以下を除いたすべての年代で男性が多い傾向があった。

報告された臨床・検査所見を表1に示す。病型は国内例ではデング熱161例(99%)、デング出血熱1例(1%)で、国外例ではデング熱170例(96%)、デング出血熱8例(4%)であった。臨床所見は国内・国外例ともにほぼ全例に発熱を認め、頭痛、発疹の頻度も高かった。国内例のデング出血熱はショック症状がなく、2009年WHOガイドラインにある重症デングではなかった。これに対し、国外例のデング出血熱8例のうちには、ショックを伴う重症デング症例が2例認められた。両群において届出時点での死亡例はなかった。

診断方法に関しては、国内例では多くの症例で非構造蛋白抗原(NS1)の検出(75%)で診断されており、国外例では、52%がPCR法による遺伝子の検出、50%がNS1で診断されていた(重複あり)。血清型が報告された症例は、国内例73例で、全例が1型、国外例は76例で、うち1型が34例、2型が21例、3型が14例、4型が7例であった。

感染推定日から発病までの日数(潜伏期間)は、国外例、国内例ともに中央値は6日(IQRはそれぞれ、4-9、5-7)であった。最長の日数は、国外例、国内例でそれぞれ13日、14日であった。発症から初診までの日数の中央値(IQR)は、国外例、国内例それぞれ3日(2-5)、3日(1-5)、初診から診断までの日数の中央値(IQR)はそれぞれ2日(0-7)、2日(0-4)であった。

謝辞:感染症発生動向調査にご協力いただいている地方感染症情報センター、保健所、衛生研究所、医療機関に感謝申し上げます。

 
国立感染症研究所感染症疫学センター
  実地疫学専門家養成コース(FETP)
  ウイルス第一部
 

 

インフルエンザ流行レベルマップ 第06週(2/16更新)

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      Level01
Level02
Level06

 
 
2015年第06週 
2015年2月2日~2月8日
(2月12日現在)
   
 
 

EHECの速報グラフ(PDF)2015年第6週以降のお知らせ(2015/2/17)

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諸般の事情により、毎週更新しておりましたEHECの速報グラフ(PDF)の掲載を当面停止します。
週別・都道府県別報告数、累積報告数については、
毎週の『IDWR(週報)速報データ』『CSVで公開』をご覧ください。

今後も利用しやすい情報の発信に努めていきますので、
何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます。

国立感染症研究所感染症疫学センター
(2015年2月17日)
2015年 速報データ ※2015年第5週の速報グラフを掲載いたしました

2015年第5週(2015年2月4日現在)

2015年第4週(2015年1月28日現在)

2015年第3週(2015年1月21日現在)

2015年第2週(2015年1月14日現在)

2015年第1週(2015年1月8日現在)

 


デング熱 検疫所による情報

抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス 2015年02月19日

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国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室

 

全国地方衛生研究所

日本は世界最大の抗インフルエンザ薬使用国であり、薬剤耐性株の検出状況を迅速に把握し、自治体および医療機関に情報提供することは公衆衛生上重要である。そこで全国地方衛生研究所(地研)と国立感染症研究所(感染研)では、オセルタミビル(商品名タミフル)、ザナミビル(商品名リレンザ)、ペラミビル(商品名ラピアクタ)およびラニナミビル(商品名イナビル)に対する薬剤耐性株サーベイランスを実施している。

下記のグラフおよび表に、地研が遺伝子解析により耐性マーカーH275Yを検出した結果および感染研においてオセルタミビル、ザナミビル、ペラミビルおよびラニナミビルに対する薬剤感受性試験を行った結果の集計を示す。集計結果は随時更新される。 

2014/2015シーズン  (データ更新日:2015年02月19日)NEW
dr14-15j20150219-1s
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 
2013/2014シーズン  (データ更新日:2015年01月22日)
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 
2012/2013シーズン  (データ更新日:2014年3月10日)
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 
2011/2012シーズン  (データ更新日:2013年4月11日)
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 
2010/2011シーズン  (データ更新日:2013年2月6日)
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 
2009/2010シーズン  (データ更新日:2013年2月6日)
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別

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インフルエンザウイルス分離・検出状況 2014年第36週(9/1-9/7)~2015年7週(2/9-2/15)

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国立感染症研究所・感染症情報センターには地方衛生研究所(地研)から「病原体個票」が報告されている。これには感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体の情報が含まれる(参考図)。
図1.週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数、2014年第20週~2015年第7週
(週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数、2013年第36週~2014年第36週)
図2.都道府県別インフルエンザウイルス分離・報告状況、2014年第36週~2015年第7週
図3.インフルエンザウイルス分離・検出例の年齢群、2014年第36週~2015年第7週
図4.2000/01~2014/15シーズン比較:CSV

 *2014/15シーズンは2014年第36週/9月~2015年第35週/8月(検体採取週)。

図の元データは、以下の速報グラフ(病原体個票による報告)。

データは、土日祝日を除く2日前に地研から報告された情報。過去の週に遡っての追加報告もある。現在報告数は、地研より報告された日を表す。

<参考図> 週別インフルエンザ患者報告数とインフルエンザウイルス分離・検出報告数の推移、2008年第36週~2011年第41週
インフルエンザウイルス分離・検出状況 2013年第36週(9/2-8)~2014年第35週(8/25-31)
(2015年1月16日現在報告数)
インフルエンザウイルス分離・検出状況 2012年第36週(9/3-9)~2013年第20週(5/13-19)
(2013年5月16日現在報告数)
インフルエンザウイルス分離・検出状況 2011年第36週(9/5-11)~2012年第25週(6/18-24)
(2012年7月19日現在報告数)
インフルエンザウイルス分離・検出状況 2010年第36週(9/6-12)~2011年第19週(5/9-15)
(2011年9月6日現在報告数)
インフルエンザウイルス分離・検出状況 2009年第19週(5/4-10)~2010年第19週(5/10-16)
(2010年5月13日現在報告数)
国立感染症研究所感染症疫学センター 病原微生物検出情報事務局

麻疹ウイルス分離・検出状況(グラフ) 2015年(2015年2月18日現在報告数)

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麻疹ウイルス分離・検出状況(グラフ) 2015年(2015年2月18日現在報告数)

図1.月別麻疹ウイルス分離・検出報告数、2010~2015年 CSV
図2.麻疹ウイルス分離・検出例の年齢分布、2012~2015年
図3.遺伝子型別都道府県別麻疹ウイルス分離・検出報告状況、2012~2015年

 

麻疹ウイルス分離・検出状況 定型グラフ(自動更新)

週別 PDF CSV
都道府県別 PDF CSV

 

麻疹ウイルス分離・検出状況 遺伝子型別一覧 (2015年1月20日現在報告数)

2014年 CSV
2013年 CSV

麻疹ウイルス分離・検出状況 定型集計表 (自動更新)

月別 PDF CSV
年別 PDF CSV

ノロウイルス等検出状況 2014/15シーズン(2015年2月18日現在報告数)

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 国立感染症研究所・感染症疫学センターには地方衛生研究所(地研)から「病原体個票」が報告されている。これには感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体(ノロウイルスをはじめ、サポウイルス、ロタウイルス、アストロウイルスなど)の情報が含まれる。

図1.週別ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルス検出報告数、2014/15シーズン
図2.都道府県別ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルス検出報告状況、2014/15シーズン
図3.週別都道府県別ノロウイルス検出報告状況、2014/15シーズン
図4.ノロウイルス感染集団発生の伝播経路別月別推移、2010/11〜2014/15シーズン CSV
図5.ノロウイルス感染集団発生の推定感染・摂取場所の割合、2012/13〜2014/15シーズン

*2014/15シーズンは2014年第36週/9月~2015年第35週/8月(検体採取週)。

図の元データは、以下の速報グラフ(病原体個票による報告)の(1)〜(4)。

データは、土日祝日を除く2日前に地研から報告された情報。過去の週に遡っての追加報告もある。現在報告数は、地研より報告された日を表す。

 

*参考:週別Astrovirus検出報告数2010/11-2014/15シーズン (2015年2月18日現在報告数)

 

 

 

 

 

(参考)ノロウイルス関連情報(国立医薬品食品衛生研究所)

 

 


 

 

 

ノロウイルス等検出状況 2013/14シーズン (2014年10月1日現在報告数)

 

ノロウイルス等検出状況 2012/13シーズン (2013年10月24日現在報告数)

 

ノロウイルス等検出状況 2011/12シーズン (2012年11月8日現在報告数)

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 病原微生物検出情報事務局

 

 

IASR 36(2), 2015【特集】梅毒 2008~2014年

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The topic of This Month Vol.36 No.2(No.420)

梅毒 2008~2014年

(IASR Vol. 36 p. 17-19: 2015年2月号)


梅毒は細菌感染症であり、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum、以下T. pallidum)が病原体である。T. pallidumは直径0.1~0.2μm、長さ6~20μmのらせん状である。活発な運動性を有し、染色法や暗視野顕微鏡で肉眼的に観察できる。試験管内培養ができないため、病原性の機構はほとんど解明されていない。

日本では1948年に性病予防法により、全数報告を求める梅毒患者届出が開始された。1999年4月からは、梅毒は感染症法により全数把握対象疾患の5類感染症に定められており、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出ることが義務づけられている(届出基準http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-11.html を参照)。

感染経路と症状:早期感染者の患部からの滲出液などに含まれるT. pallidumが、主に性的接触により、粘膜や皮膚の小さな傷から侵入して感染する。また、感染した妊婦の胎盤を通じて胎児に感染した場合は、流産、死産、先天梅毒を生じる原因となる。なお、母乳による母子感染は通常成立しないと考えられている。

T. pallidumが感染すると、3~6週間程度の潜伏期の後に、感染箇所に初期硬結や硬性下疳がみられ(I期顕症梅毒)、その後数週間~数カ月を経過するとT. pallidumが血行性に全身へ移行し、皮膚や粘膜に発疹がみられるようになる(II期顕症梅毒)。これらI期顕症梅毒、II期顕症梅毒を早期顕症梅毒と総称する。感染後数年~数十年経過すると、ゴム腫、心血管症状、神経症状などが出現する場合があり、これを晩期顕症梅毒という。早期と晩期顕症梅毒の間に症状が消える無症候期があり、これが、診断・治療の遅れにつながることがある。

先天梅毒では、生後まもなく皮膚病変、肝脾腫、骨軟骨炎などが認められるものを早期先天梅毒と称する。乳幼児期は症状を呈さず、学童期以降Hutchinson3徴候(実質性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinson歯)を呈するものを晩期先天梅毒という。

検査と治療:梅毒の起因菌であるT. pallidumは培養ができない。患部のT. pallidumを顕微鏡で直接観察するか、患者血清中に菌体抗原およびカルジオリピンに対する抗体を検出することで診断する(本号4ページ)。抗体陽転前の早期には、PCRにより皮膚病変からT. pallidum遺伝子を検出する方法が抗体検査の補助手段として検討されている(本号5ページ)。

治療にはペニシリン系抗菌薬が有効であり、耐性菌は報告されていない。

患者発生動向:日本では、梅毒は1999年4月に性病予防法による届出から感染症法による届出に変わったことに留意する必要があるが、1948年以降、患者報告数は大きく減少した(図1)。1967年、1972年、1999年、2008年に小流行がみられるが、その原因は特定されていない。2008年以降の報告数に着目すると、2010年以降増加傾向に転じている。2008~2014年の患者報告数は計6,745例(男性は5,262例、女性は1,483例)で(2015年1月15日集計暫定値)、うち早期顕症梅毒が3,740例(I期1,290例、II期2,450例。年平均人口10万対罹患率0.42)、晩期顕症梅毒が399例、無症候が2,567例、先天梅毒が39例であった(表1)。この間の年平均人口10万対罹患率は0.75である(表2)。都道府県別では、東京、大阪、愛知、神奈川、福岡で全国の報告数の62%を占めた(表2)。

梅毒の病期別年齢分布を図2に示す。T. pallidum感染早期の患者動向を反映する早期顕症梅毒患者の年齢は20~44歳にかけて広いピークを持つ。早期顕症梅毒では、男性は2012~2014年にかけて20~40代が増加し、女性は2013~2014年にかけて報告が倍増し、特に10~20代での増加が目立った(図3・左)。ちなみに、18歳未満の早期顕症梅毒の報告数は、2008~2014年まで計57例(各年14、4、5、4、6、10、14例。男性21例、女性36例)であった。感染経路として、男性では同性間性的接触による感染が2008年以降増加を続けている(図3・右)。女性では異性間性的接触による感染が大部分であるが、男性においても2012年以降異性間性的接触による感染が増加している。

先天梅毒は2014年に増加がみられた(表1)。2008~2014年までの出生10万当たり報告数は、各年0.8、0.5、0.1、0.6、0.4、0.4、1.0(出生数は人口動態統計による確定数、2014年のみ推定値)であった。性感染症罹患による受診時、献血、妊婦健診、手術前の検査などの機会に梅毒抗体検査を受けて発見された無症候患者も2013~2014年に増加している(表1)。

予防対策:不特定多数の人との性的接触がリスク因子であり、その際のコンドームの非使用はそのリスクを高める。梅毒の陰部潰瘍はHIVなど他の性感染症の感染リスクを高めるとともに、HIV感染症に梅毒が合併すると相互に影響を及ぼし、HIV感染症および梅毒の進行が早まり重症化しうる(本号6ページ)。過去には感染性のある患者の血液に由来する輸血による感染が問題となったが、現在はスクリーニング技術の進歩により輸血による新規の患者発生は認められていない。一方、針刺し事故や実験室感染等に対する注意が必要である。胎盤が形成される妊娠16週以降の胎児にT. pallidum感染が起こると先天梅毒の発症リスクが増加するので、その予防には、妊娠早期の梅毒抗体検査と感染が認められた場合には早期の治療を行うこと、および妊娠中の梅毒感染の防止を図ることが重要である(IASR 34: 113-114,2013)。

近年、無症候性および早期顕症梅毒患者の増加がみられ、国外でも患者数の増加が報告されていること(本号8ページ)から、①オーラルセックスやアナルセックスでも感染すること(本号7ページ)、②終生免疫は得られず再感染すること、③早期顕症期に診断されず、長期の無症候期に治療を行わないと病態が進行して晩期顕症となる等の情報提供は、若年層を中心とした梅毒に関する啓発上重要である。また、診断した医師は届出を行うとともに、患者ばかりでなく、必要に応じてその性行為パートナーに対する教育、検査等を行うことも必要である。

なお、性感染症に関する特定感染症予防指針に基づきホームページ等(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/)を通じて、啓発活動が行われている。 

 

中央アメリカで曝露し米国の収容施設で発症した狂犬病による死亡、2013年―米国テキサス州

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中央アメリカで曝露し米国の収容施設で発症した狂犬病による死亡、2013年―米国テキサス州

(IASR Vol. 36 p. 32: 2015年2月号)

症例報告:2013年5月、28歳のグアテマラ人男性が米国への不法入国により国境警備隊に逮捕された。7日後の米移民税関捜査局の収容施設において、不眠、不安、悪心、嚥下障害、流涎過多、喀痰を示した。その後入院した病院で、精神状態および呼吸状態は悪化していった。著しい末梢白血球数増加(好中球82%)、発熱(39.8℃)、血圧不安定、流涎過多、風に対する異常な恐れなどが認められた。脳のMRTでは異常所見はなかった。

血清検査で狂犬病ウイルス抗体が検出されたため、Milwaukee protocol (version 4.0)(実験的狂犬病治療プラン)により治療が開始された。CDCの確定検査では、血清中と脳脊髄液中に狂犬病ウイルス特異的中和抗体が認められた。

入院22日目に脳死が宣告された。皮膚、唾液、死後の脳組織から検出されたウイルスは、中米からのイヌの狂犬病ウイルス変異株と一致していた。患者は本国で犬を飼育していた(2011年に原因不明で死亡)が、家族からの報告や入院時や検死報告からも、動物による咬傷はなかった。家族からの希望により、遺体は感染予防対策を強化した防腐処置が施され本国へ送られた。

公衆衛生対応:ヒトでは十分な報告がないため、狂犬病発症10日前から唾液や涙からウイルスを排出するというイヌやネコなどでの研究結果をもとに、感染性を有する期間は発症14日前からとし、CDCとテキサス州の保健部門は接触者調査を開始した。感染性期間のうち、最初の7日間はメキシコにいたと推測され、8日目に逮捕、接触者調査を開始したのは37日目であった。収容施設4カ所、収容所の診療所、病院2カ所において、患者と接触があったと考えられる人がリスク評価の対象とされた。患者の唾液・涙と、皮膚の開放創や粘膜と直接接触した可能性が高い者には曝露後予防(PEP)が勧告された。調査では、ユニークなリスクのスコアリング(収容施設への入退出時の接触:スコア1、飲食物の共有がある所にいた場合:スコア2、発症時の患者との接触:スコア3とし、スコアを累積)を用いた。

リスク評価対象の収容者のうち、多くはすでに中南米の本国に送還されていたため、汎米保健機構(PAHO) の協力のもと、国際保健規則(IHR)に報告した。最終的には収容者、捜査取締官、医療従事者等の接触疑い例742人中、25人がPEPを勧告され受けた(収容施設でリスクありの37人中15人がPEP勧告。捜査関係者185人の調査では、実際の逮捕に関わった3人がPEP勧告。医療関係者44人の調査で、5人がPEP勧告され、曝露の根拠はなかったが2人が自発的にPEPを受けた)。

狂犬病は進行性の脳炎によりほぼ100%死亡し、世界では毎年約5万5千人が死亡している。米国では2003~2013年に34例の狂犬病の報告があり、そのうち10例(29%)は海外での曝露であった。今回は強制収容中という初めてのケースで、収容施設は密接な接触のある閉鎖空間であり、狂犬病に限らず、感染症の伝播や潜在的な病気に接触する環境である。法の執行官と公衆衛生担当官が協力することで迅速に潜在的リスクのある者を特定し、救命措置が行える。また、原因不明の急性進行性脳炎の入院患者で、特に狂犬病の常在地からきた患者で動物に曝露歴がある場合など、狂犬病の診断も考慮するべきである。

(CDC, MMWR, 63(20): 446-449, 2014)
(担当:感染研・木下一美、砂川富正)

 

 


成田空港検疫所で対応した動物咬傷に関わる相談に関する検討 2013年

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成田空港検疫所で対応した動物咬傷に関わる相談に関する検討 2013年

(IASR Vol. 36 p. 31-32: 2015年2月号)

発症するとほとんどが死亡する狂犬病については、動物咬傷後にワクチンを接種する予防策(rabies postexposure prophylaxis: RPEP)が有効であり、検疫所は国外で動物咬傷を受けた渡航者に対し、必要に応じてRPEPを勧奨している。今回、2013年に成田空港検疫所で対応した国外での動物咬傷に関わる健康相談について検討したので報告する。

対象および方法
2013年に成田空港検疫所健康相談室で帰国時に健康相談を行った有症者(n=5,254)の中で、動物咬傷に関して対応した日本国籍者(健康相談群:n=192, 全相談件数の3.65%)、同一期間に対応した電話相談(n=1,523)の中で動物咬傷に関する相談を受けた例(電話相談群:n=50, 全相談件数の3.28%)を対象とした。健康相談群については、年齢、国外滞在期間、帰国月について、帰国日本国籍者の政府統計1)と比較し、単位帰国者数当たりの動物咬傷数を算出し、特徴を把握した。また、動物咬傷を受けた国、RPEPの状況について検討した。電話相談群については、加えて検疫所によるRPEP対応施設の紹介状況について検討した。

結 果 
健康相談群を年齢10歳ごとに分け、全国帰国者統計による各年齢層10万人当たりの動物咬傷数を算出すると、20代および30代の旅行者が他の年代に比して多かった(図1)。国外滞在期間をみた場合、5日以内の短期旅行者では動物咬傷数が少なく、滞在日数が10日を超える旅行者で多い傾向がみられた(図2)。月別に成田空港帰国者10万人当たりの動物咬傷数を算出すると、8月、9月、12月、1月で多い傾向がみられた(図3)。動物咬傷の頻度の高い国は上位から、タイ、フィリピン、インド、インドネシアの順で、この4カ国で全体の43%を占めた。RPEPが必須と考えられる、WHOによる狂犬病罹患リスク2) が中等度、高度の国で動物咬傷を受けた者は、全体の81%を占めた。その中で渡航中にRPEPを受けていなかった旅行者は56%に上り、RPEPを受けた者の中でも、接種回数の不足が27%にみられた。また、咬傷後1日以上経過してから接種を受けた者が58%みられた。

電話相談群において、動物咬傷が生じた月、国は健康相談群と同じ傾向を示した。狂犬病罹患リスクが中等度、高度の国でRPEPを要する咬傷を受けた40例中、電話相談時にRPEPを受けていなかった例が14例(35%)みられた。この中の4例は相談時に受傷から5日以上が経過していた。これらRPEPを受けていなかった14例全例に、検疫所は速やかなRPEPを勧めるか、帰国が迫っていた者には帰国日にRPEPが可能な施設を紹介していた。

考 察
狂犬病リスクにつながる国外での動物咬傷は、成田空港検疫所が関わった相談だけでも3日当たり2件で、実数はさらに多いと考えられる。相談に至った例においても渡航先でRPEPが必要であったがRPEPを受けなかった例は多く、また、RPEPを受けたが接種までの日数がかかったり、接種回数が不足したりする例がみられたことは、一般に狂犬病のリスクが過小評価されていることを示唆している。

20~30代の青年層で動物咬傷が多かったことは、この年代が動物とより接触しやすい旅行形態を取っている可能性を示唆している。滞在期間が10日を超える旅行者で動物咬傷は多く、滞在期間に比例した増加に加え、長期旅行に特徴的な旅行形態に動物との接触機会を増やす要因がある可能性がある。8月、9月、12月、1月で動物咬傷が多いことは、年末年始や夏季休暇といった観光シーズンの国外旅行者に動物咬傷の頻度が高いことを示唆している。

検疫所は、狂犬病への罹患リスクを伴う動物咬傷の重大性を強調するとともに、動物咬傷の起きやすい条件について国外旅行者に積極的に広報し、動物咬傷を受けた旅行者がRPEPを受けやすいように各国の医療情報について積極的に情報提供しなければならないと考えられた。


参考文献
  1. 法務省 出入国管理統計統計表
    http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_nyukan.html
  2. WHO Global distribution risk humans contracting rabies 2011
    http://www.who.int/rabies/Global_distribution_risk_humans_contracting_rabies_2011.png


成田空港検疫所
    検疫課 磯田貴義 足立玄洋 廣島満子 御手洗 葵 牧江俊雄 古市美絵子
    所 長  原 德壽
名古屋検疫所中部空港検疫所支所
    支所長 本馬恭子

 

 

2014年のヘルパンギーナ患者からのウイルス検出状況―仙台市

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2014年のヘルパンギーナ患者からのウイルス検出状況―仙台市

(IASR Vol. 36 p. 29-30: 2015年2月号)

2014年、仙台市におけるヘルパンギーナの定点当たりの患者報告数は、第27週から増加し始め、第36週でピークに達した後、減少した(図1)。ピーク時の定点当たり患者報告数は5.69人で、2013年の3.73人に比べ1.96人の増加となり、過去5年間では2011年以来の流行となった。また、患者報告数は全国平均より7週遅れてピークを形成した。

一方、手足口病の定点当たりの患者報告数は、第27週から増加し始めたが、その後1.0を超えることはないまま推移し、ピーク時の患者報告数は0.77人(2013年は6.46人)で、手足口病の流行はほとんどみられなかった(図2)。

ウイルス分離・同定は、病原体定点で採取された咽頭ぬぐい液(以下、検体)を、RD-A細胞〔国立感染症研究所(感染研)から分与〕に接種し、37℃1週間培養し、2代目まで継代した。細胞培養にてCPEが認められた検体については、培養上清を精製後、感染研から分与された抗血清で中和試験を試みた。また、検体もしくはCPEが観察された培養上清から、市販のキットを用いてRNAを抽出し、CODEHOP PCR 法1)によりVP1領域の遺伝子を増幅した。増幅産物を精製後、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、エンテロウイルスの遺伝子配列による型別分類webサービス(http://www.rivm.nl/mpf/enterovirus/typingtool)により血清型の同定を行った。

2014年7~10月に感染症発生動向調査の病原体定点から、ヘルパンギーナ患者の検体は16検体搬入され、細胞培養によるウイルス分離を試みた15検体中11件で、RD-A細胞で2代目までにCPEが認められた。分離されたウイルスは中和試験により8検体がコクサッキーウイルスA群4型(以下、CVA4)、3検体がCVA5と同定された。そのうち、CVA5が分離された1検体からは、遺伝子検査においてエンテロウイルス、アデノウイルスの2種類の遺伝子が検出されたことから、A549細胞にも接種し、34℃1週間培養したところ、2代目でCPEが認められ、中和試験においてアデノウイルス1型と同定された。

また、同時期にヘルパンギーナ、手足口病とは別の診断名で病原体定点から搬出された検体(咽頭ぬぐい液)の中で、3検体からPCR検査によってエンテロウイルスの遺伝子が検出された。RD-A細胞に接種したところ、2件についてはCPEを認め、中和試験によりそれぞれCVA4と同定され、CPEを認めなかった1件は、検体から抽出したRNAの遺伝子解析において、ライノウイルスが検出された。

以上により、2014年に仙台市内でヘルパンギーナ患者から検出されたウイルスはCVA4が中心で、全国的な傾向と同じと考えられた2)。また、近県では報告がないCVA5が仙台市においては分離されていることが特徴的であった。

2012年および2014年に仙台市で分離された計13株のCVA4について、CVA4標準株およびその他過去に国内で検出された株とともにVP1領域(376bp)の系統樹解析を行った(図3)。解析にはClustalW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/)を用いた。その結果、2014年株の多くは2012年株とは異なる系統を示し、10株中8株が一つのクラスターを形成した。2014年分離株のクラスター外に位置した2株のうち、SendaiEV060_2014は2012年分離株と近いクラスターに属した。2014年の仙台市における分離株の相同性が必ずしも高くなかったことは、2012年、2014年の鳥取県内におけるCAV4分離株の相同性が同一年においては極めて高かったとする佐倉らの報告3)とは状況が異なっている。検体搬入と併せて提出された検査票によると、仙台市内で搬入されたヘルパンギーナ16件のうち、発生の状況は散発ととらえられているものが14件と大半を占め、分離されたCVA4のうちSendaiEV049_2014のみが保育園における集発事例の患者検体由来のものであった。

コクサッキーウイルスの流行は、毎年異なる型により起きている。今後もその動向に注意し、株分離、遺伝子情報の収集を行うことが必要である。


参考文献
  1. Allan W , et al . , J Clin Microbiol 44 : 2698-2704 , 2006
  2. IASR HP: 夏の疾患 ヘルパンギーナ患者から分離・検出されたウイルス
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/4892-iasrgnatus.html
  3. 佐倉千尋, 他, IASR35: 217-218, 1014


仙台市衛生研究所 菅原瑶子 牛水真紀子 関根雅夫 中田 歩 勝見正道 小林正裕
長谷川小児科医院 長谷川純男
かやば小児科医院 萱場 潤

 

 

東京都の保育所における疥癬集団発生事例 2014年

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東京都の保育所における疥癬集団発生事例 2014年

(IASR Vol. 36 p. 27-29: 2015年2月号)

疥癬は人の皮膚角質層に寄生するヒゼンダニ(疥癬虫、Sarcoptes scabiei)により引き起こされ、皮膚病変と掻痒を主症状とし、人から人へ感染する疾患である1,2)。近年わが国では病院、高齢者施設などで集団発生の事例が増加しており1)、感染拡大防止のため適切な介入を実施していくことが重要である。今回、当保健所は2014年9月に保育所での疥癬集団発生事例を経験したことから、その疫学調査について報告する。

集団発生の探知
2014年9月17日、保育所を所管する担当課より、「昨日、区内認証保育所に通う1歳児とその家族が疥癬と診断された。それ以外に発疹のあった1歳児1名とクラス担任にも受診勧奨したところ、本日疥癬と診断された。」との報告を受けた。区内において、2006年以降、疥癬事例の把握は2件のみで、保育所での発生例はなく、普段発生のない保育所で複数の疥癬患者が発生していることから集団発生と判断した。

症例定義
確定例は「2014年度現在在籍している園児と職員のうち、2014年4月1日以降に発疹を呈し疥癬と診断された者(①)、または①と接触があり疥癬と診断された者」とし、疑い例は「2014年度現在在籍している園児と職員のうち、一斉健診で体幹に孤立性紅色小丘疹を認めた者、または①と接触があり疥癬の疑いありと診断された者」とした。

施設概要
当該保育所の開所日時は月~土曜日の7時30分~20時30分(延長保育7時~7時30分、20時30分~22時)、通所園児は、0~4歳児各7人、5歳児6人の計41人であった。職員数は、保育士7人、栄養士2人、その他子育てサポート員が10人であった。保育所は複合施設の一角にあり、同フロアで0歳児、1~2歳児、3~5歳児の3部屋に分かれて保育が行われ、延長保育時には全クラスまとめて混合保育を行っていた。また、8月25日、9月1日に他保育所の園児を招き、当該保育所にて交流保育を実施していた。

記述疫学
症例は19例(確定例8例、疑い例11例)確認され、性別は男性4例、女性15例であった。所属別にみると、0歳児クラス2例、1歳児クラス6例(うち確定例3例)、2歳児クラス0例、3歳児クラス1例、4歳児クラス2例(同1例)、5歳児クラス2例、保育士1例(同1例)、保護者4例(同3例)、交流保育児1例であった。症状としては掻痒感が17例、皮疹が19例(体幹と手の両方10例、体幹のみ8例、その他1例)にみられた。流行曲線をみると、2014年第25週に初発例が発症し、第31週から他の症例が持続的に発生していた(図1)。第38~39週にかけてピークがみられるが、これは保育所で実施した一斉健診によって疑い例の多くが発見された結果と考えられた。第40週を最後に症例の発生はなかった。初発例と考えられた1歳児クラス担任保育士は、2014年6月中旬に湿疹が脇腹~腹部に出現し、強い掻痒感を自覚していた。医療機関で処方を受けていたが、8月中旬に手荒れが出現し、改善しないことから、9月上旬から手荒れに対しステロイド軟膏が処方された。その後急速に皮膚症状が増悪し、9月16日には保育所で疥癬患者が発生したことから、9月17日に確認のため受診し、状況を主治医に伝えたところ、疥癬と診断され、翌日の再診で角化型疥癬と診断された。

対策と経過
9月18日に1歳児クラス担当保育士が角化型疥癬と診断されたことから、翌日より10月6日まで就業制限となった。9月19日に、当該保育所近隣の皮膚科医の協力を得て全園児と職員を対象に一斉健診を実施した。実施にあたり、保護者には保育所から個別に説明を行った。シーツ、寝具類の一斉交換を実施し、9月20日には専門業者による全室消毒を行った。9月26日に2回目の一斉健診を実施し、翌日の27日に再度専門業者による全室消毒と清掃を行った。10月3日に3回目の一斉健診を実施し、新たな患者が確認されなかったことから、健診対応を終了とした。また、10月1日に交流保育児に疑い例が発生したことから、10月2日交流保育所においても一斉健診を実施した。この間、症例の同居家族に対する健康観察を実施したほか、掲示、口頭、文章にて保護者への説明を逐次実施した。12月1日、潜伏期間(1カ月)の2倍を経過しても新たな症例の発生を認めず、終息と判断した。

解析疫学
本集団感染について、感染源は1歳児クラスの担任保育士で、園児への保育ケア(接触感染)を通して、1歳児クラスを中心に感染が拡大したと仮定し、おむつ着用、皮膚疾患、保育時間が危険因子と考え、後ろ向きコホートデザインで研究を行った。

保育所の園児を対象として発症リスクを算出したところ、1歳児クラスに所属する者、皮膚疾患を有する者の発症リスク(相対危険度)は高く、有意な関連がみられた()。

考 察
初発事例は6月中旬に発症した1歳児クラス担任保育士で、手荒れが出現した8月中旬頃より感染力の強い角化型となっていたと考えられる。この保育士は、発症後確定診断がつくまでの13週間にわたり勤務を続けていたことから、接触者への持続的な曝露があったものと考えられた。初発の保育士が担当する1歳児クラスに発症者が続出し、最終的には同クラスに6症例が発生した(図2)。また、1歳児クラスの一部の症例から家族(3~5歳児含む)へも感染が広がった。続いて接触頻度は少ないものの、混合保育や交流保育を通じ、保育士から0歳児クラス、3~5歳児クラス、さらに交流保育の園児へも感染が拡大したと考えられた。

一斉健診による症例の早期発見・早期治療、非症例の予防的処置、発症者の隔離、保護者への適切なリスクコミュニケーションが患者発生の抑制につながったと考えられた。疫学解析においても、1歳児クラスの発症リスクが高いことが証明され、また、皮膚疾患の既往は、疥癬感染のリスク要因と考えられた。

提 言
今回の事例では、職員である保育士から感染が広がったことから、保育所等集団生活を行う場においては、日頃からの職員の健康チェックが重要である。発疹や掻痒感が長期間続いたり、ステロイド薬の塗布で改善がみられない、いは増悪するような場合は、所属の看護師へ相談することが望ましい。また、一斉健診や消毒、職員の予防内服など、積極的な対応により早期の終息を図ることができたことから、集団感染対応には施設と関係者の十分な協力を得ることが重要である。疥癬が保育施設内で発生することはまれであるが、万一の場合に備え、発生時の対応を決めておくことが大切である。また、早期の探知を図る上で症候群サーベイランスの一つである保育園サーベイランスが役立つと考えられる3)


参考文献
  1. 石井則久,他, 疥癬診療ガイドライン(第 2 版),日皮会誌117(1): 1-13,2007
    https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/1372913831_4.pdf
  2. 石井則久,他, 疥癬とは, 国立感染症研究所
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/380-itch-intro.html
  3. 症候群サーベイランス, 国立感染症研究所感染症疫学センター
    http://www.syndromic-surveillance.net/hoikuen/


中央区保健所健康推進課 左近士美和 杉下由行 阿部真悠子
あさの皮フ科 浅野祐介 浅野さとえ

 

 

中東呼吸器症候群(MERS) 検疫所による情報

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抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス 2015年02月26日

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国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室

 

全国地方衛生研究所

日本は世界最大の抗インフルエンザ薬使用国であり、薬剤耐性株の検出状況を迅速に把握し、自治体および医療機関に情報提供することは公衆衛生上重要である。そこで全国地方衛生研究所(地研)と国立感染症研究所(感染研)では、オセルタミビル(商品名タミフル)、ザナミビル(商品名リレンザ)、ペラミビル(商品名ラピアクタ)およびラニナミビル(商品名イナビル)に対する薬剤耐性株サーベイランスを実施している。

下記のグラフおよび表に、地研が遺伝子解析により耐性マーカーH275Yを検出した結果および感染研においてオセルタミビル、ザナミビル、ペラミビルおよびラニナミビルに対する薬剤感受性試験を行った結果の集計を示す。集計結果は随時更新される。 

2014/2015シーズン  (データ更新日:2015年02月26日)NEW
dr14-15j20150226-1s
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 
2013/2014シーズン  (データ更新日:2015年01月22日)
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 
2012/2013シーズン  (データ更新日:2014年3月10日)
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 
2011/2012シーズン  (データ更新日:2013年4月11日)
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 
2010/2011シーズン  (データ更新日:2013年2月6日)
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 
2009/2010シーズン  (データ更新日:2013年2月6日)
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別

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