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愛知県で2013/14シーズンに初めて分離されたB型インフルエンザウイルス(Victoria系統)の性状

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愛知県で2013/14シーズンに初めて分離されたB型インフルエンザウイルス(Victoria系統)の性状

(IASR Vol. 34 p. 376-377: 2013年12月号)

 

2013年10月15日に上気道炎、下気道炎、発疹より麻疹を疑われた6カ月児より採取された咽頭ぬぐい液検体から、B型インフルエンザウイルスが分離された。患者は10月5日に発熱、10月8日にベトナムより入国。当研究所による麻疹・風疹およびパルボウイルスB19遺伝子検査は陰性、咽頭ぬぐい液検体をMDCK細胞、HeLa細胞、RD-18S細胞およびVero細胞に接種したところ、MDCK細胞において接種後4日目に細胞変性効果が認められた。このウイルス培養上清液に対して0.5%ニワトリ赤血球を用いた赤血球凝集(HA)試験を行ったところ、HA価は128倍を示した。そこで、国立感染症研究所より配布されている2013/14シーズン用インフルエンザウイルス同定キットにて赤血球凝集抑制(HI)試験による型別同定を行った。その結果、分離株はB/Victoria系統の抗B/Brisbane/60/2008血清(ホモ価640)に対してHI価1,280を示し、抗A/California/7/2009血清(同1,280)、抗A/Texas/50/2012血清(同2,560)、B/Yamagata系統の抗B/Massachusetts/02/2012血清(同640)に対してはHI価<10を示したため、B型インフルエンザウイルス(Victoria系統)と同定された。また、咽頭ぬぐい液検体より抽出したRNAにて実施したリアルタイムRT-PCR遺伝子検査においてもB型遺伝子を検出した。

HA、NA遺伝子解析
分離されたB/Aichi(愛知)/62/2013株はHA遺伝子(1,041塩基)系統樹解析により2011/12シーズンワクチン株(B/Brisbane/60/2008)と同じクレード1aに分類され、GISAID(The Global Initiative on Sharing All Influenza Data)に登録されている2013年6~9月の分離株(10月28日確認)と同じ分岐に属していた()。しかし、BLAST検索で100%の相同性を有する株は認められなかった。また、当研究所で2012/13シーズンの1~5月に分離された6株も同じ分岐に属していた()。NA遺伝子の系統樹解析ではB/Brisbane/60/2008株と比べて3アミノ酸(S295R、N340D、E358K)が異なる2011/12および2012/13シーズン分離株(当研究所)由来の分岐に属していた。また、既知のノイラミニダーゼ阻害剤に対する耐性変異は検出されなかった。

2013/14シーズンに入り、県内195定点医療機関からのインフルエンザ患者報告は、11月第1週現在10例前後(定点あたり0.05)である1)。今回の事例は発熱から検体採取までに10日(入国後7日)を要し、発疹が認められた乳児症例であるため、B型インフルエンザ感染時期は国外輸入症例若しくは入国後の何れも可能性が考えられる。今シーズン国内でのB型インフルエンザウイルスの分離・検出状況は11月11日現在2)Victoria系統4株、山形系統4株、系統不明1株である。和歌山県においては山形系統による集団発生が認められており3)、今後どちらの系統が流行するのか発生動向に注意する必要がある。

 

参考文献
1) 愛知県感染症情報センター 愛知県感染症情報 (2013年11月11日確認)   
     http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/2f/201344.pdf
2) IASR 週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数 (2013年11月11日確認)   
     https://nesid3g.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data2j.pdf
3) IASR 34: 375-376, 2013   
     http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-m/flu-iasrs/4085-pr4062.html

 

愛知県衛生研究所   
    安井善宏 尾内彩乃 中村範子 小林慎一 山下照夫 皆川洋子


2013/14シーズン初めの小学校を中心としたB型インフルエンザの発生事例―和歌山県

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2013/14シーズン初めの小学校を中心としたB型インフルエンザの発生事例―和歌山県

(IASR Vol. 34 p. 375-376: 2013年12月号)

 

今シーズンの本格的なインフルエンザ流行を前に、和歌山県内の小学校でB型インフルエンザによる集団発生が確認された。地域の状況を含め、その概要を報告する。

2013年10月7日(月)、田辺保健所に管内の定点医療機関から、地域の小学校(全校児童 約250名)に通う児童の中に簡易キット検査でB型インフルエンザ陽性の患者が複数例確認されているとの連絡が入った。さらに、前日までの1週間(第40週)に同保健所管内の定点医療機関で、県内では3カ月以上みられていなかったインフルエンザ患者が3例確認されていることが分かった。上記小学校ではインフルエンザ様疾患により全校で10名が欠席しており、翌8日(火)にはさらに増加して2年生と4年生の各1クラスずつで3日間の学級閉鎖措置がとられた。なお、同じ校区内の中学校でも同時期にインフルエンザ様疾患による欠席者が確認されている。翌週になると小学校の欠席者数も減少し、同じ地区内の幼稚園にも欠席者が確認されたものの、小・中学校を含め、いずれも概ね散発的に推移した(図1)。その間、感染症発生動向調査では田辺保健所管内の定点医療機関から、第40~42週にかけて累積18例のインフルエンザ発生報告があった。患者はいずれも15歳未満の小児で、6~9歳の児童が3分の2を占めた(図2)。

医療機関において、10月5日~7日にかけて発症した児童、計5名(表1)から鼻汁を採取し、MDCK細胞に接種してウイルス分離を試みたところ、4検体で細胞変性効果が確認された。これらについて、2012年に国立感染症研究所より配布された2012/13シーズンインフルエンザウイルス同定キットを用い、0.75%モルモット赤血球で赤血球凝集抑制(HI)試験による同定試験を行った。得られた4株はすべてB/Wisconsin/1/2010(山形系統)の抗血清(ホモ価160)に対してのみ凝集抑制が認められ、いずれもHI価は160だった。また、ウイルスが分離されなかった症例についても、検体からRNAを抽出し、Real-time RT-PCR法によりB型インフルエンザウイルス遺伝子を検出した。

感染症発生動向調査では、第40週~42週にかけて周辺の保健所管内でインフルエンザ患者発生の報告は無く、また第43週には田辺保健所管内を含めた県内の全定点医療機関で発生の報告が無い。現時点ではインフルエンザの非流行期における局地的な小流行と考えられる。山形系統のウイルスは、AH3亜型が主流であった2012/13シーズンにも県内で流行期を通じて散発的に検出されており、今後もその流行形態を注視したい。

謝辞:感染症発生動向調査にご協力をいただいている各定点医療機関、および本報告に際し情報提供をいただきました田辺市各関係機関の皆様に深謝いたします。 

 

和歌山県環境衛生研究センター 寺杣文男 下野尚悦 田中敬子
田辺保健所 小川晃弘 杉本美佐
医療法人こうま会 うえはら小児科 上原俊宏

2013/14シーズン最初に分離・検出されたインフルエンザウイルス―栃木県

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2013/14シーズン最初に分離・検出されたインフルエンザウイルス―栃木県

(IASR Vol. 34 p. 374-375: 2013年12月号)

 

2013年10月2日に栃木県県北保健所管内の病原体定点医療機関から今シーズン最初のインフルエンザ患者由来検体が栃木県保健環境センターに搬入された。これらの検体についてインフルエンザウイルス分離・検出状況および県内流行状況について概要を報告する。
 
2013年10月2日(第40週)に栃木県感染症発生動向調査事業に基づき、病原体定点医療機関からインフルエンザウイルス検体が6検体搬入された。その後、10月10日(第41週)にも同じ医療機関から9検体のインフルエンザウイルス検体の搬入があった(図1)。これらの検体はすべて県北保健所管内の患者(7~12歳)から採取された検体であり、県北地域における限定的な小流行が確認された。
 
搬入された15検体(咽頭ぬぐい液および鼻汁)からウイルスRNAを抽出し、リアルタイムOneStep RT-PCR(TaqMan Probe法)によりインフルエンザウイルス遺伝子の検出を行った。その結果、15検体すべてからインフルエンザウイルスAH3亜型が検出された。また、RT-PCR陽性検体の増幅産物を用いて、HA遺伝子(HA1領域)の塩基配列を決定し、系統樹解析を実施した(図2)。15検体すべて2013/14シーズンのA(H3N2)ワクチン株A/Texas/50/2012と同じVictoria/208クレードの3Cサブクレード内に位置していた。
 
MDCK細胞を用いてウイルス分離を試みた結果、1検体で細胞変性効果が確認された。この培養上清に対してモルモット血球を用いた赤血球凝集(HA)試験を行ったところ、8HA/25μLのHA価を示した。そこで、国立感染症研究所から配布された2013/14シーズンインフルエンザ同定キットを用いて赤血球凝集抑制(HI)試験を行ったところ、A/Texas/50/2012 (H3N2) の抗血清に対するHI価は1,280(ホモ価1,280)であり、RT-PCRによる亜型同定結果とも一致していた。
 
県北地域のインフルエンザ定点から第38週に今シーズン初の患者報告が確認され、第40週には患者報告数16名となった。この期間、県内他地域のインフルエンザ定点におけるインフルエンザ患者の報告はなく、県北地域における限定的な小流行であったと考えられる。その後、第43週以降、県内全域のインフルエンザ定点から少しずつ患者報告が確認されている。過去5シーズンの患者発生状況については、第35~39週に初めて患者報告が確認されているが、ピーク時(週)は2009年のパンデミックの際は第48週、その他のシーズンは、第4~6週となっている。今シーズンは、シーズン始めに県北地域における小流行が認められたものの県内全域には広がっておらず、今後来年に向けて増加していくものと考えられる。
 
2012/13シーズンはAH3亜型が流行株の主流であったが、今シーズンの全国のインフルエンザ検出状況を確認すると(http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html)、今回検出されたAH3亜型だけでなく、AH1pdm09やB型も検出されている。今シーズンは、まだ本格的な流行期を迎えておらず、本県においても今後どのような株が流行するか、その動向に注目していく必要がある。

 

栃木県保健環境センター
     微生物部 櫛渕泉美  岡本その子 舩渡川圭次
     企画情報部 舟迫 香

IASR 34(12), 2013【特集】侵襲性髄膜炎菌感染症 2005年~2013年10月

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The Topic of This Month Vol.34 No.12(No.406)

侵襲性髄膜炎菌感染症 2005年~2013年10月 

(IASR Vol. 34 p. 361-362: 2013年12月号)

 

髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)はグラム陰性の双球菌で、健康なヒトの鼻咽頭からも低頻度ながら分離される。飛沫感染で伝播し、侵襲性感染症としては、菌血症(敗血症なし)、髄膜炎を伴わない敗血症(IASR 30: 158-159, 2009)、髄膜炎(IASR 25: 207, 2004およびIASR 27: 276-277, 2006)、髄膜脳炎の4型がある。敗血症を発症すると特に予後が悪い。急性劇症型として副腎出血や全身のショック状態を呈するWaterhouse-Friderichsen症候群がある。非侵襲性感染症としては、肺炎(本号8ページ)・尿道炎(本号10ページ)などの多彩な病像がある。

髄膜炎菌に関連する届出疾患の変遷:髄膜炎菌に関連する疾患としては、日本では戦前より伝染病予防法に基づく「流行性脳脊髄膜炎」の患者届出が行われ(表1)、1945年前後には年間4,000例を超える患者が報告された。その後激減し、1969年以降年間100例未満(図1)、1978年以降は30例以下、1990年代に入ると一桁台となった。1999年4月の感染症法の施行により、「髄膜炎菌性髄膜炎」が全数把握の4類感染症となった(表1)。1999年以降、2013年3月まで、毎年7~21例の報告があった(図1図2)。2011年5月に宮崎県の高校の学生寮で血清群Bによる集団発生が起こった際、髄膜炎症例に加え、敗血症など非髄膜炎症例の多発が指摘された(IASR 32: 298-299, 2011および本号7ページ)。2012年4月には学校保健安全法が改正され、髄膜炎菌性髄膜炎が新たに第2種感染症に追加された。

侵襲性髄膜炎菌感染症の発生動向(2013年4月~):2013年4月に、髄膜炎菌による髄膜炎に敗血症も加えた、「侵襲性髄膜炎菌感染症」として全数把握の5類感染症の届出に変更となり(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-09-01.html)、2013年4月以降18例が報告されたが、乳幼児の届出はなかった(表2、2013年11月15日現在)。原因菌は、髄液から2例、血液から13例、双方から3例分離された。届出18例のうち、13例が関東地方の自治体からの届出で、うち10例が東京都からである。集団発生あるいは相互に疫学的リンクのある症例、海外渡航歴のある症例は無かった。死亡が3例(32歳、39歳、70歳)で、死因はショック症状を伴う敗血症であった。侵襲性髄膜炎菌感染症となって以降の、現時点までの致命率は17%(3/18)である。

性別年齢分布図3):2005~2013年での男女比はほぼ7:5である。1999~2004年の報告では、4歳までの乳幼児と15~19歳に患者発生が多かったが(IASR 26: 33-34, 2005)、2005~2013年では、青壮年(20代、50~60代)の患者報告が増加した。また、乳児・高齢者のみならず、15歳~30代が、死亡者全体の半数を占めている。

血清群別発生状況:髄膜炎菌は莢膜多糖体の糖鎖の違いにより13血清群に分類されており、流行地におけるワクチンの選択に、臨床分離株の血清群の情報は不可欠である。2005~2013年3月までの「髄膜炎菌性髄膜炎」と、2013年4~10月までの「侵襲性髄膜炎菌感染症」を合わせた115例(図4)中、50例の血清群に関する情報が得られた。B群が22例と最も多く、次いでY群が18例、C群が2例、W-135群が3例、Y群またはW-135群かを群別できなかったものが5例であった(図4)。国立感染症研究所細菌第一部では、MLST (multilocus sequence typing)法による精度の高い分子疫学的解析も実施し、国際的なデータベースへの照合による国際的な疫学解析も実施している。2005~2012年の間に18株が収集され、解析済の国内分離株は ST-23 complex やST-41/44 complex といった既知の遺伝子型に属していることがわかった。一方で、国外では報告のない新規ST株も検出された(本号3ページ)。

治療とワクチン:治療にはペニシリンGないし第三世代セフェム系抗菌薬を経静脈的に投与する。流行拡大防止措置として接触者への予防内服(リファンピシンないしニューキノロン系)が勧奨されている(本号6ページ)。予防投与のガイドラインはまだない。ワクチンは莢膜抗原に特異的で、血清群A、C、Y、W-135に対してのワクチンが入手可能だが、わが国では未承認である(本号11ページ)。

海外での発生状況:サハラ以南アフリカの髄膜炎ベルトでは流行が継続し、先進国でも散発的患者発生や学生寮での流行、イスラム教巡礼に端を発する国際的な伝播が報告されてきた。感染のほとんどはA、B、C、Y、W-135の5群によるが、近年、髄膜炎ベルトでX群の増加が報告されている。先進国ではB群の頻度が高い(本号12ページ)。ドイツの男性同性愛者間での侵襲性髄膜炎菌感染症事例(IASR 34: 240, 2013)、米国の学校でのアウトブレイク(IASR 33: 138&142, 2012)も報告されている。国際保健規則(International Health Regulation: IHR)では、髄膜炎菌感染症は、その公衆衛生上の懸念は通常は地域限定的だが、短期間で世界に伝播する可能性あるものとしてAnnex2にリストされている(http://whqlibdoc.who.int/publications/2008/9789241580410_eng.pdf)。

近年届け出られた患者には海外渡航歴がないことから、流行地への渡航者への注意喚起だけではなく、国内でも感染が発生する疾患であるとの認識が必要である。特に学生寮など共同生活を行っている場での患者発生時には、速やかな発生報告と疫学調査の実施が、感染予防措置のために必要である。菌株解析は、海外の流行株の流入経路や、潜在的な国内での菌の伝播を把握し、策を立案するうえで重要であり、臨床現場や自治体との連携、地方衛生研究所・国立感染症研究所のネットワークの強化が必要である。

 

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本邦初報告となるロスリバーウイルス感染症の輸入症例

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本邦初報告となるロスリバーウイルス感染症の輸入症例

(IASR Vol. 34 p. 380-381: 2013年12月号)

 

ロスリバーウイルス(Ross River virus: RRV)感染症は主にオーストラリアを中心としたオセアニアでみられる、RRVによって引き起こされる感染症である。これまで日本国内において確定診断された症例はなく、今回本邦初の症例を経験したため報告する。

患者は31歳の女性で、主訴は関節痛であった。2013年1月13日からワーキングホリデーを利用して、オーストラリアに渡航していた。2月28日~3月6日までタスマニアへ旅行した以外はメルボルンに滞在していた。3月14日の起床時に左足背の疼痛と腫脹、右膝の疼痛を自覚し、歩くのも困難なほどであった。翌日には疼痛が悪化し関節可動域制限も出現したため、現地で家庭医を受診した。血液検査を施行されたところ、WBC 4,600/μl、Hb 13.9g/dl、Plt 180,000/μl、ESR 7mm/hr、AST 20IU/l、 ALT 14IU/l、CRP 0.03mg/dl、その他検査でも特記異常なく、原因ははっきりしないとのことで消炎鎮痛薬処方となった。その後も症状は軽快、悪化を繰り返しながら持続したため、4月中旬に現地の整形外科を受診した。血液検査を施行され、WBC 3,800/μl、Hb 12.3g/dl、Plt 180,000/μl、ESR 5mm/hr、その他の検査でも特記すべき異常はみられなかった。RRV、バーマ森林ウイルスといったウイルス疾患も考慮され、ウイルス抗体検査に提出され、消炎鎮痛薬にて経過をみることとなった。5月初旬から疼痛は徐々に改善し、またこの頃RRVの抗体検査が陽性であったことが判明した(現地検査の結果:RRV serology; IgG antibody: low positive、IgM antibody: positive 2013/4/19、IgG antibody: positive、IgM antibody: positive 2013/5/9)。症状が続くため5月12日に帰国し、関西空港検疫所からの紹介で5月15日に当院受診となった。経過中、発熱、皮疹など関節痛以外の症状はなかった。

初診時、意識清明で血圧109/59mmHg、脈拍76回/分、体温37.4℃であった。左足関節、足背に自発痛・圧痛あるが腫脹熱感発赤なく、右膝に自発痛・圧痛あるが腫脹熱感可動域制限といった関節炎所見はなかった。その他特記すべき身体所見はみられなかった。当院初診時の血液検査においても炎症反応の上昇はなく、特記すべき異常値を認めなかった。

オーストラリアで発症した関節炎を主体とした症状、現地での検査結果より、RRV感染症を疑い、国立感染症研究所に検査を依頼した。初診時の血液検査にて、RRV IgG ELISA(panbio)陽性、IgG absorbed IgM ELISA(panbio)陽性、IgM capture ELISA(in house)陽性であり、RRVの急性感染と考えられた。その後初診時から2週間後に再度検査を行ったが、やはりRRV IgGは陽性であり、IgMはcapture ELISAにおいて、1:1,600から1:400と抗体価の低下を認め、RRVの急性感染として矛盾しない所見であった。そのためRRV感染症と診断した。

RRVは蚊によって媒介されるアルボウイルスの一種であり、トガウイルス科、アルファウイルス属に分類される。オーストラリアでは毎年約4,000人の患者が発生しており、主に北部、西部を中心に、雨期(12月~2月頃)に流行する。オーストラリア以外でも、パプアニューギニア、ニューカレドニア、フィジー、サモア、クック諸島といった近隣の国で発生が報告されている1)

RRV感染症の潜伏期間は通常7~9日であるが、3~21日に及ぶこともある2)。関節炎・関節痛、皮疹や倦怠感、筋肉痛、発熱、リンパ節腫脹といった全身症状が主な症状である。関節炎・関節痛はほぼすべての患者に生じ、主として小関節、多発性で、手関節、膝関節、足関節、指関節、肘関節などが対称性に侵される。関節痛が長期間続くことが特徴で、通常3~6カ月、ないしそれ以上続く場合もある。皮疹は1~5mmの紅色斑状丘疹がおよそ50%の患者にみられる。倦怠感は50%以上、筋肉痛は58%、発熱は33~50%の患者でみられる1)。全身症状は通常1週間程度で軽快する。 

診断には流行地への渡航歴と、蚊への曝露を問診することが重要となる。検査所見の異常は少なく、時にわずかな白血球の上昇、赤沈の亢進がみられる。CRPは正常なことが多い。血清学的診断として、ELISAによる抗体検査が流行地であるオーストラリアでは利用できる2) 。日本の一般検査会社は抗体検査を実施していないが、国立感染症研究所ウイルス第一部第2室に依頼できる。ウイルス血症は感染後数日しか持続せず、その時期にPCRでRNAを検出できることもあるが、感度は高くない。IgMは感染後数カ月持続するので、IgMの検出は最近の感染を示している。またIgGのペア血清を測定し、陽転あるいは有意な上昇がみられれば最近の感染と考える。

治療はNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)による対症療法を行う。ワクチンはなく、防蚊対策が予防には重要である。

これまで日本で確定診断されたRRV患者の報告はない。しかし、ドイツ、シンガポール、イスラエルでは既に渡航者におけるRRV感染症が報告されており3-5)、日本からオーストラリアへの渡航者の多さを考えると、今後日本でも輸入症例の診断が増加するものと思われる。

原因不明の関節痛、発熱、皮疹の患者を診る際には、RRV感染症も念頭において、流行地への渡航歴を確認する必要がある。

 

参考文献
1) Harley D, Sleigh A, Ritchie S, Ross River virus transmission, infection, and disease: a cross-disciplinary review, Clin Microbiol Rev 14: 909-932, 2001
2) Harley D, Suhrbier A, Ross River Virus Disease, In: Magill AJ, Ryan ET, Hill DR, Solomon T, editors, Hunter’s tropical medicine and emerging infectious diseases (Ninth edition), Elsevier inc p315-317, 2013
3) Tappe D, Schmidt-Chanasit J, Ries A, Ziegler U, Muller A, Stich A, Ross River virus infection in a traveller returning from northern Australia, Med Microbiol Immunol 198: 271-273, 2009
4) Hossain I, Tambyah PA, Wilder-Smith A, Ross River virus disease in a traveler to Australia, J Travel Med 16: 420-423, 2009
5) Kivity S, Eyal M, Hanna B, Eli S, Protracted Rheumatic Manifestations in Travelers, J Clin Rheumatol 17(2): 55-58, 2011

 

京都市立病院感染症科 
     杤谷健太郎 篠原 浩 土戸康弘 清水恒広
国立感染症研究所ウイルス第一部第2室 
     モイメンリン 高崎智彦

関西空港検疫所で経験したロスリバー熱の相談事例

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関西空港検疫所で経験したロスリバー熱の相談事例

(IASR Vol. 34 p. 378-380: 2013年12月号)

 

オーストラリアには、チクングニアウイルスと近縁なロスリバーウイルスによる蚊媒介性ウイルス感染症であるロスリバー熱が流行している。2013年5月、検疫時にロスリバー熱に関する健康相談事例を経験したので報告する。

事例概要
相談者は31歳女性。2013年5月12日にオーストラリアから関西国際空港へ帰国。関節痛に関する相談のため検疫所健康相談室に立ち寄った。

問診によると、相談者は2013年1月13日よりオーストラリアのメルボルンにワーキングホリデーで滞在。2月28日~3月6日までタスマニアに渡航。メルボルンで蚊に刺された自覚はなく、タスマニア滞在中に右大腿部に蚊刺咬痕を数カ所認めた。3月14日起床時に、左足背の腫脹と疼痛、右膝窩部の疼痛を自覚。翌日には歩行困難となったため、現地の病院を受診し、一般診療科医師による診察を受けた。当初、発熱など感染症を疑わせる症状に乏しく、膠原病や整形外科疾患が疑われ、レントゲン、MRI、血液検査等施行されたが、右膝に破裂後のベイカー嚢胞を認めた以外は明らかな異常を認めなかった。整形外科医師へのコンサルトも行われたが、原因不明のまま経過観察の方針でいったん終診となった。その後も左足背・右膝の疼痛は持続し、下半身に関節痛・筋痛が散発・消退を繰り返し、手指に、朝に強く夕に改善する疼痛が出現することもあった。4月8日左足背の疼痛が突然増悪し、再度歩行困難となったことから再診。別な整形外科医師による診察を受け、血液検査が再度施行され、5月1日血清学的にロスリバーウイルス感染症の診断となった。

健康相談室入室時の体温は37.4℃。関節痛は軽減していたが左足首に残存していた。身体所見上、明らかな関節の発赤、腫脹、変形、皮疹を認めなかった。相談者は膠原病の精査を希望し、実家近郊の医療機関を受診する目的で帰国されたとのことであったが、ウイルス感染症の精査も必要と考えられたことから京都市立病院感染症科を紹介した。その後、相談者は同院を受診し、ロスリバーウイルスの抗体が確認され、本邦初のロスリバーウイルス感染症の輸入症例として報告されている1)(本号20ページ参照)。

ロスリバー熱
特徴:ロスリバー熱は、蚊で媒介されるロスリバーウイルスによる非致死性の発疹性熱性疾患である。ロスリバーウイルスは、トガウイルス科アルファウイルス属に分類されるRNAウイルスで2)、検疫感染症に含まれる蚊媒介性ウイルス感染症であるチクングニア熱の病因となるチクングニアウイルスと近縁なウイルスである。

疫学:ロスリバー熱は、オーストラリア、パプアニューギニア、ソロモン諸島にみられる。疾患自体は1928年に報告されたが、ウイルスは1959年、ロスリバー(Ross River)河口のタウンズビルで捕獲されたハマベヤブカから初めて分離された3)。主な媒介蚊は、沿岸部ではAedes camptorhynchusAedes  vigilax (ハマベヤブカ)、内陸部ではCulex annulirostrisなどである4)。オーストラリアでは毎年約4,800人の患者報告があり、ほとんどが南半球の夏~秋にあたる1~5月にかけて発生し、2~4月にピークとなる5,6)。報告によれば、2010~2011年の1年間にオーストラリアで確認された蚊媒介性疾患患者9,291人のうち、ロスリバー熱は5,653人(人口10万対25.0)と最多であった。また、患者数はクイーンズランド州で最も多いが(1,397人)、南オーストラリア州やビクトリア州で急増しており、南部への急速な感染拡大がみられる6)。現在までに日本国内での患者発生はなく、本例が初の輸入症例となる。

臨床症状:蚊に刺されてから3~11日後に発症するが、約60%は不顕性感染に終わる。症状は多発関節痛がほぼ必発で、発熱、筋肉痛、倦怠感、皮疹、リンパ節腫脹である。関節痛は特に手首・膝・足首、手足指など末梢・両側性に生じやすく、関節腫脹や朝のこわばりがみられることもある。多くは数週間で回復するが、3カ月以上、まれに1年以上持続する例もみられる。症状の再燃・消退を繰り返すことがあるが、症状はそのたびに軽くなっていき、以後は完全に治癒する。病原体診断では、血清中のウイルスの分離、ウイルスRNAの検出、特異的IgG抗体やIgM抗体の検出を行う2,5,7,8)

治療・予防:特異的な治療はなく、疼痛に対するNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの対処療法である。予防ワクチンはなく、衣服や昆虫忌避剤などによる防蚊対策が予防の基本である5)

本邦のオーストラリアへの渡航者の状況
日本人のオーストラリア入国者数は、年間約36万人で、3、8月のピーク時には4万人以上に上る9))。関西国際空港にはオーストラリア便が毎日1~2便運航しており、その検疫人員(乗客)は年間約8,000人で、3、8、12月のピーク時には約1万人に上る。渡航者数と罹患率から推測すれば、オーストラリアへの渡航者がロスリバー熱に罹患する可能性が考えられる。

検疫所での健康相談
本例は、帰国時に検疫所の健康相談室に立ち寄り、検疫医療専門職(医師)が問診・診察の上、感染症専門病院を紹介し、ロスリバー熱の本邦初の輸入例として報告された。現在、ロスリバー熱は、検疫感染症に指定されていないが、検疫所では、検疫感染症以外の感染症についても、感染症情報の提供や帰国時の健康相談等を行っている。本例では、検疫所での相談対応が相談者の速やかな受診行動につながった。

 

参考文献
1) TochitaniK, et al., Ross River virus-Japan ex Australia: (Victoria), ProMed
2) Harley D, et al., Clin Microbiol Rev 14(4): 909-932, 2001
3) Doherty RL, et al., Australian Journal of Science 26: 183-184, 1963
4) Russell RC, Annual Review of Entomology 47: 1-31, 2002
5) Blue Book, Communicable Disease Prevention and Control Unit, Department of Health, Victoria Australia
6) Arboviral diseases and malaria in Australia, 2010-11: Annual report of the National Arbovirus and Malaria Advisory Committee
7) Communicable Diseases Factsheet, New South Wales government, Australia 
http://www.health.nsw.gov.au/Infectious/factsheets/Factsheets/rossriver.PDF 

8) Queensland Health Fact Sheet, Queensland government, Australia
    http://www.health.qld.gov.au
9) オース
トラリア政府観光局資料 
http://tourism.australia.com/statistics.aspx

 

関西空港検疫所      
  石原園子 笠松美恵 井村俊郎 片山友子

日本のHIV感染者・AIDS患者の状況   (平成25年7月1日~9月29日)

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日本のHIV感染者・AIDS患者の状況
(平成25年7月1日~9月29日)

(Vol. 34 p. 383-385 : 2013年12月号)

平成25年11月27日
厚生労働省健康局疾病対策課
第135回エイズ動向委員会委員長コメント
 
《平成25年第3四半期》

 【概要】

1.今回の報告期間は平成25年7月1日~平成25年9月29日までの約3か月
2.新規HIV感染者報告数は261件(前回報告294件、 前年同時期273件)。そのうち男性251件、女性10件で、男性は前回(286件)および前年同時期(259件)より減少、女性は前回(8件)より増加、前年同時期(14件)より減少
3.新規AIDS患者報告数は108件(前回報告146件、前年同時期111件)。そのうち男性102件、女性6件で、男性は前回(143件)および前年同時期(104件)より減少、女性は前回(3件)より増加、前年同時期(7件)より減少
4.HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数は369件

【感染経路・年齢等の動向】

1.新規HIV感染者報告数:
   ○同性間性的接触によるものが188件(全HIV感染者報告数の約72%)
   ○異性間性的接触によるものが46件(全HIV感染者報告数の約18%)。そのうち男性38件、女性8件
   ○母子感染によるものは0件
   ○静注薬物によるものは2件(うち、その他に計上されているものが、2件)
 ○年齢別では、20~30代が多い。

2.新規AIDS患者報告数:
   ○同性間性的接触によるものが59件(全AIDS患者報告数の約55%)
   ○異性間性的接触によるものが30件(全AIDS患者報告数の約28%)。そのうち男性27件、女性3件
   ○母子感染によるものは0件
   ○静注薬物によるものは0件
 ○年齢別では、30~40 代が多い。

【検査・相談件数の概況(平成25年7月~9月)】

1.保健所におけるHIV抗体検査件数(速報値)は24,434件(前回報告24,165件、前年同時期24,484件)、 自治体が実施する保健所以外の検査件数(速報値)は7,255件(前回報告7,142件、前年同時期6,924件) 

2.保健所等における相談件数(速報値)は33,644件(前回報告32,682件、前年同時期37,029件)

【献血の概況(平成25年1月~9月)】

1.献血件数(速報値)は、3,908,307件(前年同時期速報値3,942,718件)

2.そのうちHIV抗体・核酸増幅検査陽性件数(速報値)は55件(前年同時期速報値56件)。10万件当たりの陽性件数(速報値)は、1.407件(前年同時期速報値1.420件)

《まとめ》

1.新規HIV感染者および新規AIDS患者報告数は、前回および前年同時期と比べやや少なく、傾向として横ばいであった。

2.保健所等におけるHIV抗体検査件数は、前回および前年同時期と比べやや多く、傾向として横ばいであった。

3.献血時のHIV検査陽性件数(速報値)は、前年同時期とほぼ同数であった。保健所等の無料検査および相談を積極的に利用していただきたい。

4. 12 月1日は世界エイズデーであり、厚生労働省や自治体等において、「恋愛の数だけHIVを語ろう」をテーマに、世界エイズデーに合わせたキャンペーンが実施されている。国民の皆様にはこの機会を通じて、HIV/エイズに関心をもっていただきたい。

 

保育所における腸管病原性大腸菌O55:H7による食中毒事例―長野県

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保育所における腸管病原性大腸菌O55:H7による食中毒事例―長野県

(IASR Vol. 34 p. 382-383: 2013年12月号)

 

2013年7月、長野県中部の保育所で腸管病原性大腸菌(EPEC)O55:H7を原因とする食中毒事例が発生したので、その概要を報告する。

2013年7月29日、A市から管轄保健所に、7月28日から下痢等の胃腸炎症状を呈し19人の園児が欠席しているとの連絡があった。発症者は当該保育所の園児および職員247名中81名(1歳~46歳)で、7月27日から下痢(90.1%)、腹痛(50.6%)、発熱(22.2%)等の症状を呈していた。有症者の約7割が7月28日~29日にかけて発症しており、発症曲線は一峰性を示した(図1)。

保健所の調査によると、提供されていた給食はすべて保育所内で調理されたもので、園児の他、保育所の職員や調理従事者も同一メニューを喫食していた。食材の多くは市販品であったが、野菜の一部は園内で自家栽培されたものが使用されていた。園内の使用水は市の公共水道水で、水道直結型であり受水槽の設置はなく、立ち入り調査時の測定では蛇口において充分な残留塩素濃度(0.2~0.5ppm)が確保されていた。また、食品の取り扱いに一部不備が認められたものの、調理室およびトイレの設備は衛生的に保持されていた。プールは水道水を使用しており、別途塩素剤を滴下することで残留塩素濃度が管理されていた。

保健所において、患者・調理従事者便、検食、調理器具等ふきとり検体、プール水およびプール周囲ふきとり検体を採取し、常法に従い食中毒起因菌の検査を実施したところ、患者10検体中9検体、調理従事者8検体中5検体から大腸菌 O55が優位に検出された。なお、他の食中毒起因菌およびノロウイルス(当所で検査実施)は検出されなかった。

分離された大腸菌 O55は、当所においてPCR法により大腸菌病原性関連遺伝子(VT1/2、LT、STp、STh、invEastAafaDaggReaeおよびbfpA 遺伝子)の検査を実施したところ、供試菌株のすべてから細胞への密着に関与するインチミン遺伝子eaeが検出されたことから、腸管病原性大腸菌(EPEC)が集団感染の起因菌と推察された。

しかし、検食17検体、ふきとり検体17検体、プール水1検体のいずれからも大腸菌O55が検出されなかった。そこで当所において別途、検食と自家栽培した野菜のノボビオシン加mEC培地による増菌後の培養液105検体およびプール水をメンブランフィルター法により集菌したフィルター振出液1検体について、eae遺伝子をターゲットとしたPCR検査を実施したが、いずれの検体からも検出されなかった。

なお、分離された菌株14株について、病原大腸菌免疫血清を用いてH血清型別を実施するとともに、制限酵素XbaI を用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行ったところ、すべての菌株のH血清型はH7で、PFGEは同一パターンを示した(図2)。

保健所は、患者および調理従事者からEPEC O55:H7が検出されたこと、患者の発症曲線は一峰性を示し単一曝露が推定されたこと、さらに検食からは同菌種および病原遺伝子は検出されなかったものの、共通する食事はこの保育所で調理した給食のみであるなどの疫学情報から、本事例は当該施設の給食を原因とするEPEC O55:H7による食中毒と断定した。

なお、7月26日の昼食メニューの喫食状況が発症者と関連性が強く、発症ピークとEPECの潜伏期間とも一致することから、原因食品は26日の給食と推定された。

当県では近年、食育の普及により自家栽培した食材の使用や、給食施設の調理従事者が自ら調理した給食を児童と一緒に食べる傾向が強くなっている。しかし、集団食中毒事例が発生すると調理従事者も汚染食品から感染・発症する可能性が高く、さらに今回のような起因菌の判別に苦慮するEPECの場合、原因究明が難しくなるなどのデメリットも認識させられた事例であった。

 

長野県環境保全研究所 関口真紀 笠原ひとみ 中沢春幸 藤田 暁    
長野県松本保健福祉事務所 矢島康宏 大和真一 斉藤邦昭 小山敏枝 尾川裕子 二本松萌


本邦12例目となるC. ulceransヒト感染症例

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本邦12例目となるC. ulcerans ヒト感染症例

(IASR Vol. 34 p. 381-382: 2013年12月号)

 

Corynebacterium ulceransC. ulcerans)は、人畜共通感染症であり、ジフテリア菌毒素産生能をもつものがあり、上気道感染においては偽膜形成を特徴とする感染症である。国内では上気道感染以外にもリンパ節炎や皮膚炎なども含め発症例の報告を散見する。現在確認できる中では国内12症例目となるC. ulceransによる急性鼻咽頭炎を経験したので報告する。

症例:71歳 女性

既往症:特記事項無し

ジフテリアワクチン接種歴:なし

家族歴:特記事項無し

飼育歴:猫 複数匹飼育あり(うち1匹に鼻汁など感冒様症状有り)

現病歴:2012(平成24)年11月12日より鼻閉、咽頭痛、後鼻漏出現し11月16日近医受診し、急性副鼻腔炎や急性咽喉頭炎を疑われ同日当院へ紹介受診となった。初診時、多量の水様から膿性鼻汁と後鼻漏があり、口腔からの視診により確認できるほどの鼻咽頭から中咽頭上方まで連続する偽膜形成を認めた。鼻腔ファイバー所見では、後鼻孔を閉塞し、鼻咽頭を充満する非常に厚く強固に付着する偽膜形成を認めた。同部位より偽膜の一部を採取し細菌学的検査へ提出した。下咽頭、喉頭には軽度発赤を認めた。血液検査では、WBC 9,150/μL、好中球70%、CRP 4.61 mg/dLと軽度の炎症を認めた。外来にてセフトリアキソン点滴し、レボフロキサシン内服の投薬し帰宅となった。翌17日再診し、鼻閉など症状が強く同日に入院となる。セフトリアキソン点滴施行し鼻閉も軽快し、同月19日退院となった。退院後はレボフロキサシン内服を11月31日まで行い、自覚症状、局所所見の改善を認め終診となった。

細菌学的検査
11月16日に採取した偽膜からの検体の培養同定検査でC. ulcerans 2+、Haemophilus parainfluenzae少数、嫌気性グラム陰性桿菌1+、Streptococcus pneumoniae少数、嫌気性グラム陰性球菌を認めた。C. ulcerans の薬剤感受性検査ではABPC、PIPC、CTM、FMOX、CMX<CTRX、CFDN、CDTR、CFPN、MEPM、EM、AZM、CPFX、LVFX、MINOに感受性陽性であり、CLDMに耐性であった。埼玉県衛生研究所でPCR法およびElek法によりジフテリア毒素遺伝子陽性と毒素産生を確認した。また、飼育中の猫からも同菌を分離した。分離された2株のC. ulcerans は、いずれもジフテリア毒素産生性であることを国立感染症研究所(感染研)の培養細胞法による測定でその毒素活性を確認した。

血清学的検査
感染研にてジフテリア抗毒素価の測定を培養細胞法で行い、8.16 IU/mLであった。

考 察
C. ulcerans は、ジフテリア毒素を産生しうる人畜共通感染症であり、本邦においては身近にいる猫や犬などペットからの感染が多いようである。海外においては牛などの畜産動物や未殺菌の生乳摂取による感染報告もあるが、人から人への感染事例の報告はまだない。本症例では感冒様症状の猫からの感染と考えられ、同一の菌が検出されている。一般的には認知度の高い菌とはいえず、ペットの感冒様症状の有無に注意を払い、そのような動物へ接触の際にはマスクや手洗いなどで感染予防を行い、動物病院へ連れて行くこと、といった啓発が必要である。C. ulcerans が確認された際には、ペットを除菌することも重要であり、さらに患者のジフテリア抗毒素価を測定し、感染防御レベル(0.1 IU/mL未満)でワクチン接種の必要性があると考えられる。本症例は8.16 IU/mLであったためワクチン接種は行わなかった。

また、医療従事者はこのような症例を経験した際にはペットの飼育歴を確認し、積極的に細菌学的検査を行うべきである。

さらに治療に関しては、米国CDCのガイドラインでは抗毒素療法とエリスロマイシンまたはペニシリンGの併用が推奨されているが、βラクタム系は有効ではないという報告もある一方で、本症例のようにβラクタム有効症例もあるため、今後も治療内容の集積が必要である。

 

朝霞台中央総合病院耳鼻咽喉科 仲田拡人
埼玉県衛生研究所臨床微生物担当 嶋田直美 青木敦子
国立感染研究所細菌第二部 山本明彦 小宮貴子

インフルエンザ流行レベルマップ 第50週(12/20更新)

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厚生労働省・感染症サーベランス事業により、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関を受診した患者数が週ごとに把握されています。 過去の患者発生状況をもとに設けられた基準値から、保健所ごとにその基準値を超えた場合に、注意報レベルや警報レベルを超えたことをお知らせする仕組みになっています(詳細は「警報・注意報システムとは」をご覧ください)。

これらはあくまで流行状況の指標であり、都道府県として発令される「警報」とは異なります。

先天性風しん症候群(CRS)の報告(2013年12月11日現在)

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インフルエンザ様疾患発生報告(学校欠席者数)

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保育所、幼稚園、小学校、中学校、高等学校において休校、学年閉鎖、学級閉鎖があった場合に、その施設数を計上するとともに、当該措置を取る直前の学校、学年、学級における在籍者数、患者数、欠席者数を計上するもの。

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PDFによる配信です。

厚生労働省健康局結核感染症課

  • 第1報(平成25年9月2日~9月8日) 平成25年9月13日作成
  • 第2報(平成25年9月9日~9月15日) 平成25年9月20日作成
  • 第3報(平成25年9月16日~9月22日) 平成25年9月27日作成
  • 第4報(平成25年9月23日~9月29日) 平成25年10月4日作成
  • 第5報(平成25年9月30日~10月6日) 平成25年10月11日作成
  • 第6報(平成25年10月7日~10月13日) 平成25年10月18日作成
  • 第7報(平成25年10月14日~10月20日) 平成25年10月25日作成
  • 第8報(平成25年10月21日~10月27日) 平成25年11月1日作成
  • 第9報(平成25年10月28日~11月3日) 平成25年11月8日作成
  • 第10報(平成25年11月4日~11月10日) 平成25年11月15日作成
  • 第11報(平成25年11月11日~11月17日) 平成25年11月22日作成
  • 第12報(平成25年11月18日~11月24日) 平成25年11月29日作成
  • 第13報(平成25年11月25日~12月1日) 平成25年12月6日作成
  • 第14報(平成25年12月2日~12月8日) 平成25年12月13日作成
  • 第15報(平成25年12月9日~12月15日) 平成25年12月20日作成

 

*2008/09シーズン第27報より対象施設に高等学校が追加されました。

腸管出血性大腸菌感染症 発生動向調査

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感染症発生動向調査(IDWR)

  • IDWR最新号(PDF)
  • 速報グラフ(PDF) 2013年第50週の速報グラフを掲載しました
    2012年までの情報はこちら をご覧ください。
  • 注目すべき感染症
  • IDWR速報記事

病原微生物検出情報(IASR)

麻疹 発生動向調査

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感染症発生動向調査(IDWR)

  • IDWR最新号(PDF)
  • 速報グラフ(PDF)  2013年第50週の速報グラフを掲載しました
    2012年までの情報はこちらをご覧ください。
  • 注目すべき感染症 -麻疹-
  • IDWR速報記事 -麻疹-
  • 麻疹ウイルスの遺伝子型が報告された症例の内訳(2012年)

病原微生物検出情報(IASR)

風疹 発生動向調査

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疫学情報

感染症発生動向調査(IDWR)

  • IDWR最新号(PDF)
  • 速報グラフ(PDF) 2013年第50週の速報グラフを掲載しました

    2012までの情報はこちらをご覧ください
  • 先天性風疹症候群(CRS)の報告(2013年12月20日更新)
  • 注目すべき感染症
  • IDWR速報記事

病原微生物検出情報(IASR)


インフルエンザウイルス分離・検出状況 2013年第18週(4/29-5/5)~2013年第51週(12/16-22)

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国立感染症研究所・感染症情報センターには地方衛生研究所(地研)から「病原体個票」が報告されている。これには感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体の情報が含まれる(参考図)。
国立感染症研究所感染症疫学センター 病原微生物検出情報事務局

<速報>今インフルエンザシーズンの初めに経験したA(H1)pdm09亜型ウイルスによる健康成人の重症インフルエンザ肺炎症例について―札幌

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<速報>今インフルエンザシーズンの初めに経験したA(H1)pdm09亜型ウイルスによる健康成人の重症インフルエンザ肺炎症例について―札幌

(掲載日 2013/12/24)

 

我々は、インフルエンザ流行期のごく初期である11月中旬に、本邦ではここ2インフルエンザシーズンほど影を潜めていたA(H1)pdm09亜型ウイルスが原因と思われる健康成人の重症インフルエンザ症例を経験したので報告する。

症 例: 患者は39歳の女性で、HIVを含め免疫不全はなく、10年前に弁膜症の治療を受けているものの、日常生活上の健康問題はほとんどなかった。2013年11月上旬から37℃台の微熱を伴う乾性咳漱があり、同月16日、38.0℃の発熱と呼吸困難のために札幌のA病院を訪れた。当初咳喘息が疑われ入院し、19日胸部レントゲンとCT検査で両側の間質性肺炎像が認められ、鼻腔ぬぐい液を用いた迅速検査でA型インフルエンザ抗原が陽性となった患者である。その後低酸素血症が確認され急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の状態に陥り、ICUで挿管管理下に置かれた。

12月に入って喀痰からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたため、細菌性肺炎としての治療も開始されており、報告日(12月13日)現在、多臓器不全の傾向にある。

ウイルス学的検査成績と診断と抗ウイルス治療: 入院後9日目に採取された気管吸引喀痰と11日目に採取された咽頭ぬぐい液についてウイルス分離とLamp法によるウイルス遺伝子検出を行ったところ、前者からLamp法でA(H1)pdmウイルス遺伝子が検出された。また、11月20日と12月2日に採取されたペア血清について市販の抗原(デンカ生研)を用いた赤血球凝集抑制(HI)試験を行ったところ、A/California/07/2009(H1N1pdm09)ウイルス抗原に対して急性期HI価1:10のところ2週間後の血清で1:320と大きな上昇が認められた。一方、A/Texas/50/2012 (H3N2)、B/Massachusetts/2/2012(山形系統)、B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)に対してはすべて1:20 となり、A(H1)pdm09ウイルスによる感染があったことが血清学的にも支持された。なお本症例の診断上、先行する間質性肺炎・肺線維症などの基礎疾患は除外されていることから、同ウイルス感染による重症肺炎と診断される。

インフルエンザが強く疑われ始めた19日(発症3日後)から、ウイルスに対する特異的治療としてラピアクタ300mg/日、タミフル150mg/日がそれぞれ11月28、30日まで投与されたが、症状の改善には至らなかった。

考 察: 札幌地域では2013年11月4日採取の試料からA(H3) 亜型ウイルスが分離されているものの、その後は11月15日採取の試料からA(H1)pdm09亜型ウイルスが今シーズン初分離されているが1)、本症例はそれとほぼ同時期、流行のごく初期に出現した重症インフルエンザといえる。

本疾患の原因となったと思われるA(H1)pdm09亜型ウイルスは、2009~2010年にかけて大流行した。初期には健康成人にも多くの肺炎が報告されたが2)、その後二次感染による重症化も報告されている3)。本症例はこれらの報告を髣髴とさせるものであった。その後本邦では、同ウイルスはごく少数しか分離されていない4)。しかしながら、世界的にみると、一昨年あたりから分離ウイルスの中で大きな割合を占めるようになってきており5)、今後わが国でも再び警戒しておく必要があろう。その観点で、患者は職員が海外と行き来のある旅行関連の会社に勤務しており、今回の原因ウイルスが海外から持ち込まれた可能性もある。一方、同ウイルスがすでに水面下で地域流行していて感染した可能性も否定できない。

本症例はA病院にとって今シーズン最初のインフルエンザ症例であり、当初は喘息との判断で一般病棟に入院している。迅速検査で感染が疑われた後で隣のベッドの患者1名、病棟看護師数名がインフルエンザを発症し迅速診断陽性となり、一時病棟での感染拡大が疑われる事態となった。重症化した二次感染例は出ず無事収束したものの、ほとんど準備のできていない状態での突然のインフルエンザの出現は、医療現場に大きな動揺をもたらす出来事であり、日常的な感染対策の重要性が改めて認識させられた。

 

参考文献
1) 札幌市衛生研究所, 札幌市における主な感染症の発生動向、インフルエンザ第48週 http://www.city.sapporo.jp/eiken/infect/trend/graph/l501.html
2) Chowell G, Bertozzi SM, Colchero MA, et al., Severe respiratory disease concurrent with the circulation of H1N1 influenza, N Eng J Med 361: 674-679, 2009
3) CDC, Bacterial coinfections in lung tissue specimens from fatal cases of 2009 pandemic influenza A (H1N1)-United States, May-August 2009, MMWR 58: 1071-1074, 2009
4) 国立感染症研究所ほか, 特集インフルエンザ 2011/12シーズン, IASR 33: 285-294, 2012 
5) Influenza update, WHO, http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/2013_12_09_surveillance_update_200.pdf

 

手稲渓仁会病院  
  武井健太郎 水戸陽貴 岸田直樹 芹澤良幹
国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター  
  伊藤洋子 大宮 卓 西村秀一

ノロウイルス等検出状況 2013/14シーズン(2013年12月19日現在報告数)

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 国立感染症研究所・感染症情報センターには地方衛生研究所(地研)から「病原体個票」が報告されている。これには感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体(ノロウイルスをはじめ、サポウイルス、ロタウイルス、アストロウイルスなど)の情報が含まれる。

図1.週別ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルス検出報告数、2013/14シーズン
図2.都道府県別ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルス検出報告状況、2013/14シーズン

*2013/14シーズンは2013年第36週/9月~2014年第35週/8月(検体採取週)。

 

データは現在週および過去の週に遡って追加報告が見込まれる。

 

 

*参考:週別Astrovirus検出報告数、2010/11-2013/14シーズン

 

 

 

 

 

(参考)ノロウイルス関連情報(国立医薬品食品衛生研究所)

 

 


 

 

 

ノロウイルス等検出状況 2012/13シーズン (2013年10月24日現在報告数)

 

ノロウイルス等検出状況 2011/12シーズン (2012年11月8日現在報告数)

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 病原微生物検出情報事務局

 

 

インフルエンザ関連死亡迅速把握システム

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インフルエンザ関連死亡迅速把握システム

 

 インフルエンザは毎年のように流行を繰り返し、社会生活へ大きな影響を与えています。我が国では、この疾病の社会へのインパクトを流行中に早期に探知するため、2000/01シーズンから21大都市*(東京都及び政令指定都市)において、インフルエンザによる死亡および肺炎による死亡を、死亡個票受理から約2週間で把握できる本システムを構築しました。

解析は、都市ごとにパラメーターを設定し、1987年第1週からのデータを用いて、インフルエンザ流行が無かった場合の死亡数(ベースライン)を推定し行いました。報告保健所数は毎週変動するので、報告された死亡数にその都市における報告保健所数の割合の逆数を乗じて、報告保健所数の増減に関する影響を排除しています。超過死亡数は、実際の死亡者数(点) が、ベースライン(ミドリ線)の95%信頼区間の上限である閾値(ピンク線)を上回っている週における、実際の死亡者数と閾値との差として定義されます。「超過死亡」については、「インフルエンザ・肺炎死亡における超過死亡について」をご参照ください。

*2003年にさいたま市、2005年静岡市、2006年に堺市、2007年に浜松市、新潟市、2009年に岡山市、2010年に相模原市、2012年に熊本市が本システムの対象となり、21大都市となった。
2013/14シーズングラフ
21大都市

麻疹ウイルス分離・検出状況 2013年(2013年12月24日現在報告数)

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